POINT1
花の表情を引き出す「花留め」
花の気に入った向きを見つけたら、動かないように固定することがポイントです。剣山を使わなくても、割り箸や輪ゴムなど、家にあるもので十分に花を支えられます。乾燥枝やシダなどの花材もネットで手軽に手に入るので、固定具兼デザインの一部として取り入れるのもおすすめです。
お気に入りの器と小さな花、それに少しの工夫があれば、誰でも気軽にいけばなを楽しめます。必要なのは専用の道具ではなく、「この角度がきれい」と気づく感性だけ。玄関や窓辺、キッチンカウンターなど、小さなスペースを活かして、心地よく花と暮らすヒントをご紹介します。
Photographs: Yoshiharu Otaki
特別な道具がなくても楽しめる、花のある時間
「いけばな」と聞くと、剣山や花器を使った本格的なスタイルを思い浮かべる方が多いかもしれません。でも実は、いけばなはもっと自由で身近なもの。お気に入りのカップに、割り箸や輪ゴムなどを使って花の向きを固定するだけでも、立派ないけばなになります。特別な知識や道具がなくても、楽しめるのです。
「この花の向きがきれい」「茎の曲がり方がおもしろい」——そんなふとした気づきが、いけばなのはじまりです。色彩やバランスの感覚は、日々の暮らしの中で自然と育まれています。特定の流派に習っていなくても、「花を愛でたい」「花を飾りたい」という気持ちこそが、何よりの第一歩です。
おうちで楽しむ、
いけばなのコツ
花の気に入った向きを見つけたら、動かないように固定することがポイントです。剣山を使わなくても、割り箸や輪ゴムなど、家にあるもので十分に花を支えられます。乾燥枝やシダなどの花材もネットで手軽に手に入るので、固定具兼デザインの一部として取り入れるのもおすすめです。
切り花を生ける前にまず大切なのが、水中で茎をカットする「水切り」。空気中で切ると、茎の内部に空気が入って水を吸い上げにくくなってしまいます。切った先がしっかり水に沈んでいればOK。すぐに水に浮いてくる場合は、空気が入っている証拠です。さらに、花器の水に台所用の塩素系漂白剤を数滴加えると雑菌の繁殖を抑えられ、花が長持ちします。2〜3日に1度は水を換えましょう。
構成に変化をつけるのも、いけばなならでは。たとえば、丸みのある構成に直線的な葉を加えるなど、異なる形を組み合わせることで、空間に動きが生まれます。生花店の切り花だけでなく、観葉植物の一部や、キッチンハーブ、道端の草なども花材として活かせます。自由な発想で、植物の個性を組み合わせてみてください。
「線」をテーマに、ワスレナグサとブプレウルム、観葉植物のドラセナコンシンナを生けた作品。花留めに使っているのは、ドライの枝もの。
最初は2種類くらいの植物で始めてみるのがおすすめです。花を眺める角度によっても印象が変わるため、それぞれをよく観察して自分が「いいな」と思える姿を探してみましょう。たとえば、どちらも曲線がきれいなど、「共通点」を見つけてテーマにすると、まとまりのある作品になります。
いけばなでは「引き算」が美しさを生みます。不要な葉や茎を小さなハサミやピンセットで取り省いていくことで、花のフォルムや空間の余白が際立ちます。ときには、花そのものをあえて取り除き、茎や葉の線の美しさを際立たせることも。迷ったときは一度手を止めて、見直してみるのも大切です。
テーマは「ボリューム」。細かく枝分かれするカスミソウを花留めに使い、鉢植えの多肉植物カランコエを生けた。柳巻き蔓(乾燥・加工した柳の皮)がアクセントに。
龍生派が提唱するのは、従来の約1/3サイズ(縦横50cm以内)で楽しむ新しいスタイルのいけばな「ひびか」。限られたスペースで花の魅力を引き出せるこの方法は、マンションのリビングや玄関、ベッドサイドなどにもぴったりです。極小の視点で植物と向き合うことで、植物の新たな表情を発見できます。
一輪の花を生けるだけでも、部屋の空気がふっと和らぐもの。花に意識を向けることで、季節の変化や足元の草花にも気づくようになり、日々の暮らしそのものが少しずつ豊かになっていきます。いけばなを通して、“暮らしの感性”を育ててみませんか。
いけばな 龍生派(龍生華道会)
1886年創流。2026年には140周年を迎える。いける人が自身の見方で、手にした植物一本一本に真摯に向かい、そこで捉えた「植物の貌(かお)」を自由に表現するいけばなを提唱。そうして自由に表現する「自由花」と、伝承の型を踏まえつつ表現する「古典華」を軸にした活動を展開。現代の住空間に合わせた小さな「ひびか」も提案し、いけばなの魅力を発信している。
https://www.ryuseiha.net