【街と森、つながる暮らし】 #2 銀座のミツバチが教えてくれること

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  • 公開日:2025.06.18

大都会の空をミツバチが飛び交っているのをご存知でしょうか。今回は日本屈指の繁華街・銀座のビルの屋上で養蜂を行っている「銀座ミツバチプロジェクト」の田中淳夫さんに、都市養蜂を通して見えた世界についてお聞きしました。

Photographs: Hideki Otsuka

銀座のビルの屋上でミツバチを飼う

都心は巨大な“蜜源”

「銀座で蜂蜜が採れたらおもしろいよね」

銀座周辺で働く有志が集まり、松屋通りに面した紙パルプ会館の屋上に3箱の巣箱を設置したのが2006年のこと。屋上からは緑らしい緑は見えませんが、初年度から150kgの蜂蜜が収穫できたといいます。

「ミツバチの飛行範囲は半径約3km。ここから2km圏内には皇居、浜離宮、日比谷公園があり、マロニエ通りのマロニエ、並木通りのリンデン、内堀通りのユリノキなど街路樹も豊富。銀座周辺は巨大な蜜源だったんです」と語るのは「銀座ミツバチプロジェクト」発起人の田中さん。

ミツバチを通して地域の環境を知る

田中さんは養蜂を始めたことで銀座を取り巻く自然環境に気づいたそう。「ミツバチは環境の変化に敏感で、生息できる条件が限られています。そんなミツバチが生きられる環境が銀座にはあったんです」

この20年の間でも都心で緑化が進んでいるのを感じていて、中央区の緑被率も上がっているのだとか。

「採れた蜂蜜の香りや味から、いまどんな花が咲いているのかが分かります。ミツバチが集めた花粉を分析することでその地域の環境の変化を可視化し、不足している植物を補って緑化しようという動きもあるんですよ」

働きバチの一生はおよそ1カ月。仕事の内容は日齢が進むにつれて移り変わり、蜜や花粉を求めて飛び回るのは最後の10日から2週間ほど。その間に1匹が集めてくる蜜はティースプーン1杯程度。

銀座で地産地消を実現

3月下旬に桜が咲き始めるとミツバチが活動的になり、4月中旬から8月初旬までが採蜜シーズンです。採蜜の時期によって咲いている花が変わるため、蜂蜜の色や、香り、味、粘度が変化します。

「ソメイヨシノの蜂蜜は桜の香りを凝縮したような鮮烈な香りで、さらっとしています」と田中さん。

2024年度には銀座4カ所、丸の内2カ所の養蜂場で計2.7tもの蜂蜜を収穫できたのだとか。収穫された蜂蜜は近隣の百貨店やレストラン、バー、ホテルなどで使われ、地域の活性化に一役買っています。

都市と自然が共生する社会を目指して

銀座ミツバチプロジェクト提供

ミツバチが支える豊かな暮らし

多くの植物は花を咲かせてもポリネーターと呼ばれる花粉媒介者が来なければ実をつけられません。ミツバチが花を訪れ、受粉によって実がなり、その実を食べに野鳥がやって来て、種が遠くへ運ばれる……。街の中で命がつながっています。

「春先には松屋銀座の駐車場にツバメが巣を作るんですよ。雛が孵ると親鳥が栄養価の高いミツバチを与えるため、ここにツバメがたくさんやって来ます。ミツバチや多様な生き物が共生できる街は、私たちにとっても暮らしやすい環境なんです」

屋上緑化からつながる縁

銀座ミツバチプロジェクトではミツバチたちのために花を育てようと、「ビーガーデン」と名付けた屋上緑化を進めています。

蜜源として利用するだけではなく、サツマイモを育てて焼酎を醸したり、コウゾとミツマタを植えて和紙を作ったりしているそう。銀座産の和紙は銀座に建つホテルを彩るアートとしても採用されました。

屋上ガーデンを作る際には全国の農業生産者に声をかけ、大分県のカボスや福島県の菜の花など、苗を提供してもらうことも。収穫時にはイベントを開催するなど、さまざまなプロジェクトを通して人と人、地域と地域とをつないでいます。

ACホテル・バイ・マリオット東京銀座の2〜13階のエレベーターホールの壁面には、オランダ人の和紙作家ロギール・アウテンボーガルトさんが手がけた銀座産の和紙があしらわれている。
銀座ミツバチプロジェクト提供

銀座ミツバチプロジェクト提供

次世代を担う子どもたちのためにできること

温暖化が進んで昆虫が減少してしまうと、草木が花を咲かせても実をつけない未来が待っています。

気候変動の時代を生きる子どもたちに、自らアクションを起こす大切さを伝えたいと、銀座ミツバチプロジェクトでは環境教育にも注力。小学校などで出前授業を行い、ミツバチの生態や私たちの暮らしとの関わりを教えています。

「2050年には世界の全人口の7割が都市に住むといわれています。環境負荷の大きい都市をどうデザインし直すかが問われているんです。人工的な構造物をちょっと緑で覆うだけで多様な生き物が育まれていることを考えると、あるべき都市の姿が見えてくるのではないでしょうか」

現在、ミツバチプロジェクトは国内100カ所以上に広がり、海外へも活動の輪を広げています。みなさんの暮らしのすぐそばにも、自然との新しい関係が芽生えているかもしれません。次回は、東京の最西端・檜原村で林業を営む「東京チェンソーズ」を訪ねます。

  • PROFILE

    田中淳夫さん
    NPO法人銀座ミツバチプロジェクト 副理事長

    2006年に銀座ミツバチプロジェクトを立ち上げ、銀座の街の活性化とミツバチが住める街づくりを提唱し、屋上緑化を推進する。また、地方との交流によって“顔の見える関係づくり”にも尽力。都市養蜂のパイオニアとして各地のミツバチプロジェクトの発足に協力し、ミツバチ仲間を広げている。
    https://gin-pachi.jp