【街と森、つながる暮らし】 #1 都会で感じる森の息吹

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  • 公開日:2025.06.11

都市の知らなかった一面にふれることで、いつも通る道や暮らしている街の見え方も変わってきます。都市生活と自然とのつながりをひもとくべく、3人のプロフェッショナルに会いに行きました。第1回は「森の案内人」として全国の森を案内する三浦 豊さん。目黒にある「自然教育園」を一緒に歩きながら、お話を伺いました。

Photographs: Yuko Kawashima

足元にある自然の魅力を再発見

―植物に関心を持ったきっかけは?

三浦さん:実は23歳まで桜とヒマワリくらいしか分かりませんでした。大学で建築を学んでいたときにアスファルトの隙間から結構植物が生えていることに気づき、観察していたら夢中になったんです。

「森」の語源は「盛り」で、木々が盛り上がるように自然に生い茂っている様子を表します。アスファルトの隙間にも“小さな森”が生まれていることに、自然のエネルギーを感じました。

草木に興味が湧いたことで卒業後は庭師の道へ。庭づくりの参考に森を見て回るうちに、木々の自然のままの姿に惹かれ、その魅力を伝えたいと「森の案内人」になりました。

―どんな場所を案内しているんですか?

三浦さん:木のあるところなら、街中から秘境まで。都内や大阪の梅田、京都の四条河原町など、都会で行うことも多いです。渋谷ならセンター街に集合して2時間半ぐらい案内します。都心にも意外と植物が生えているんですよ。

時々、「自宅から勤務先までにどんな植物が生えているか教えてほしい」という粋な依頼を受けることも。その方の家の前から一緒に歩いて解説するんですが、大抵40種類以上は見つかります。緑地に寄り道するとあっという間に3桁に。

日本はすごいんです。EU全体の植物が約1,500種のところ、日本国内だけで約6,000種を数えるんですよ。

取材で訪れたのは三浦さんがよく「森ツアー」を行っている「自然教育園」。目黒駅から徒歩10分ほどの地にありながら、豊かな自然が残る。東京ドーム約4個分の広さの園内は、自然のままの姿を見せる方針で余計な手は加えられておらず、一年を通してさまざまな動植物を身近に観察できる。

個性豊かな木々と出会い、自分と向き合う

―木々の観察を通して学んだこととは?

三浦さん:実は木と私たちは遺伝子が半分くらい同じなんです。そう聞くと、なんだか距離が近づいたような気がしませんか?

たとえば、ここに生えているアオキは葉だけでなく茎も幹も緑色で光合成できます。日陰に強く、高くならず横へと成長しますが、時には茂らした葉を部分的に枯らして“やり直す”ことも。彼らは動けないのではなく、動く必要がないんですね。

木々は個性豊かで、その多様な生き様を見ていると、元気をもらえたり、自分の生き方を考えさせられたりすることもあります。観察してその生態を知っていくと、きっと共感できる木に出会えますよ。

「モミジの花って見たことありますか?」と三浦さん。よく見ると小さな花を発見。「新芽は日光に弱いので、身を守るためにアントシアニンという色素を持っていて、今の時期だけちょっと赤いんですよ」

―森を訪れる魅力を教えてください。

三浦さん:これまで日本全国3,000カ所の森を巡ってきました。こちらの自然教育園にも何度も来ていますが、季節や時間帯、天気によっても表情が全く違いますし、情報量が多いので飽きることがありません。

たくさんのゲストを案内していますが、みなさん見方や感じ方はさまざま。ちょっと心が疲れ気味だと枯れ木に目が留まり、元気だったらきれいな花に目がいく。そのときの心境が反映されるのかなと。

家族や友達と行くのもいいですが、ぜひ1人で森に足を運んでみてください。感性が研ぎ澄まされて、自分と向き合う時間になると思います。

見方を変えれば、いつもの景色が新鮮に

―長年案内を続ける中で変化はありましたか?

三浦さん:案内を始めて16年になりますが、近年、自然の植生を再現するような緑化をあちこちで見かけるようになり、東京がどんどん魅力的になっていると感じています。

3年前に「大手町の森」を見に行ったとき、幼いタブノキが生えていて驚きました。皇居東御苑にタブノキの大木が数本あり、そこから鳥が種を運んできたのかなと。

タブノキは太古の東京の森に自生していた“森の王様”。この自然教育園にも生えていますが、種が落ちても土が豊かでないと育たないんです。「大手町の森」は“森の王様”に認められた場所なんだと感動しました。

「森(しん)・呼吸できるまちづくり」をコンセプトに掲げる大手町タワー(2014年竣工)。その敷地全体の約3分の1に相当する約3,600㎡に広がる「大手町の森」は、プレフォレストという手法で3年かけて千葉県君津市で育てた森を移植し、“本物の森”を再現。

―都市生活の中で緑に親しむおすすめの方法は?

三浦さん:僕は滋賀県の田舎に移住して、緑に囲まれて暮らしています。地元の方にとっては見慣れた景色で、特別なものとして感じていないようで、「近くに自然があればいい」という単純な話でもないのだなと。

僕が植物の魅力に気づけたのは、東京に出てきたからだと思うんです。そういう意味で、街に住む方のほうが緑の良さをとても感じやすいのではないでしょうか。 ぜひ身近でできれば歩いていける場所に “推しの木”を見つけてみてください。その木のちょっとした変化が、きっと日々の暮らしに潤いを添えてくれるはずです。

視点をほんの少し変えてみると、大都会に宿る“森”の存在に気づくことができます。次回は、都市養蜂に取り組む「銀座ミツバチプロジェクト」の田中淳夫さんに会いに、銀座のビルの屋上を訪ねます。

  • PROFILE

    三浦 豊さん
    森の案内人

    1977年京都市生まれ。日本大学芸術学部で建築を学ぶ中で庭に惹かれ、卒業後は日本庭園の庭師に。その後、日本の自然や風土をもっと知りたくなり、全国津々浦々を5年間漫遊。その感動を分かち合うため、2010年に「森の案内人」となる。著書に『木のみかた 街を歩こう、森へ行こう』(ミシマ社刊)。
    https://www.niwatomori.com