「ちょう石-CHOSEKI-」は石をテーマにしたもう一つの棟。建物の内外の壁に菰野石を多用し、石を薄く切って貼るのではなく、厚みのある石を積み上げて重厚かつ粗い表情に仕上げている。
耐久性や意匠性に優れ、古くから建築材料として用いられてきた石という素材。そのスケール感や力強さを体感できる、石の特性を生かした建築デザインをご紹介します。
「湯の山 素粋居(そすいきょ)」の一室。リビングには5t以上ある菰野石(こものいし)を自然のままに用いている。
石の持つ力を肌で感じながら過ごす非日常体験
三重県は鈴鹿山脈の麓に位置し、1,300年もの歴史を持つ「湯の山温泉」。その一角に「湯の山 素粋居」はあります。敷地内にはさまざまな自然素材をテーマにした12棟の離れが点在。間取りもインテリアも異なり、それぞれの素材に合わせて選ばれた現代美術や工芸、アンティークなどをしつらえた空間は、居心地のいい美術館のよう。
「石」をテーマにした棟の一つ「石砬-SEKIROU-」では、この地域で採れる菰野石の存在感を見せるべく、エントランスと室内に重量が5t以上もある巨石をダイナミックに配しました。力強さと上品さを兼ね備えた菰野石が持つ空気感が、宿泊体験をさらに特別なものにします。
「ちょう石-CHOSEKI-」は石をテーマにしたもう一つの棟。建物の内外の壁に菰野石を多用し、石を薄く切って貼るのではなく、厚みのある石を積み上げて重厚かつ粗い表情に仕上げている。
壁面には石でできた書架がしつらえられ、テーマに沿ってセレクトされた書籍が並ぶ。また、力強い印象の壁とは対照的に、室内には軽やかな石のアートを配置。
湯の山 素粋居
三重県三重郡菰野町菰野4842-1
https://sosuikyo.com
異彩を放つ石の
“超建築”を訪ねて
東所沢公園の森を通り抜けると、悠然と現れる「角川武蔵野ミュージアム」は、図書館・美術館・博物館が融合する文化複合施設。「ところざわサクラタウン」の敷地内にあり、メインカルチャーからポップカルチャーまで多角的に文化を発信しています。
世界的建築家・隈 研吾の手による、高さ約40mの巨大な岩の塊を思わせるデザインは、まるで武蔵野の台地が隆起して出現したかのよう。外壁には黒と白の斑が入り混じる、1つ50〜70kg、厚さ70mmの花崗岩を約2万枚使用しています。総量約1,200tにもなる岩盤を使ったダイナミックな建物は、存在感ある佇まいで見るものを大いに圧倒します。
61枚もの三角形を組み合わせた複雑なフォルムに加え、職人が石を割り出した荒々しさを保つ割肌(わりはだ)仕上げの外壁により、見る角度や光の加減によってさまざまな表情を見せる。
巨石の内部は5階建てで、4〜5階を高さ約8mの本棚に囲まれた「本棚劇場」が貫く。石の荒々しさとの調和を図るように縦横無尽に展開する本棚が、書籍やオブジェを立体的につないでいる。
角川武蔵野ミュージアム
埼玉県所沢市東所沢和田3-31-3
https://kadcul.com
写真提供:丹青社 撮影:フォワードストローク
美しい菓子を引き立てる天然石のカウンター
大手町タワー「OOTEMORI」の地下2階に位置するペストリーショップ「ラ・パティスリー by アマン東京」。その店内はシンプルで開放的でありながら、柔らかな光に包まれています。
ひときわ存在感を放つ巨大な石は、玄武岩の伊達冠石(だてかんむりいし)をそのまま使ってカウンターとして仕立てたもの。自然を感じるアートのような存在を目指し、彫刻家イサムノグチとの石彫制作でも知られる、香川県の和泉屋石材店とのコラボレーションにより選定・制作されました。
彫刻的な構成と、時を経て酸化した赤茶色の表面とその下にある黒く艶やかな表面の組み合わせにより、もともとその場所にあったかのような、大地の息吹を感じる作品となっています。
ショーケースの中には、パティシエが作るミルフィーユやタルト、ショコラといった伝統的なフランス菓子をモダンでシックに仕上げた繊細な生菓子などが並び、天然石との対比が美しい。
メインの壁には「OOTEMORI」の共用部と同じ石材を採用。その土地の環境を尊重するアマンの哲学を取り入れ、店舗の外からつながっていくようなイメージでデザインされている。
ラ・パティスリー by アマン東京
東京都千代田区大手町1-5-6 大手町タワー
OOTEMORI地下2階
https://www.aman.com/ja-jp/hotels/aman-tokyo/dining/la-patisserie-aman-tokyo
旧芝離宮恩賜庭園と浜離宮恩賜庭園に寄り添う地に建つ〈Brillia Tower 浜離宮〉。エントランスラウンジの中央には自然石を主役に据えた「隠れ庭」が設けられています。現代の枯山水を思わせる、趣ある石の表情を取り込んだ静謐な空間は、都心の喧騒から切り離され、家に帰る際に気持ちを切り替える場となるようにしつらえました。
Brillia Tower 浜離宮(2023年竣⼯/分譲済)
https://library.ttfuhan.co.jp/mansion/1428265.html