片手でも引きやすいハンドル設計
「Hemming(ヘミング)」という名前の由来は「縁(ヘム)を折り曲げる」という言葉から。背の縁を一度折り曲げることで、どの部分もつかみやすくなっており、片手で無理なく引くことができる。
多様な人々との共創によるものづくりは、「当たり前」の問い直しから始まります。これまで見過ごされがちだった誰かの困りごとを解消するデザインは、ほかの誰かにとっても使いやすいものに。インクルーシブなプロセスを経て生まれた、暮らしに身近なプロダクトをご紹介します。
CASE 01:座り心地だけでなく、“使い心地”を追求
「引く」「座る」「立ち上がる」という椅子にまつわる基本動作を、性別や年齢、体格、障がいの有無など、さまざまな違いがある人たちと一緒に検証して生まれたシェルチェア「Hemming(ヘミング)」。
たとえば、手足に不自由のある方にとって、軽い椅子は「勝手に動いてしまいそうで怖い」ものなのだそう。ある程度重量があるほうがコントロールしやすくて使い勝手がいいというのは、当事者を交えたワークショップで得られた気づきだったといいます。なるべく「デザイン」せず、フィードバックを素直に落とし込むことで、より最適なカタチに。
片手でも引きやすいハンドルデザインや、身体を横に向けやすく立ち上がりやすい座面形状、引っかかり感を低減したなめらかな脚先、体圧を分散するシート形状など、多くの方が快適に使用できる椅子に仕上がりました。
「Hemming(ヘミング)」という名前の由来は「縁(ヘム)を折り曲げる」という言葉から。背の縁を一度折り曲げることで、どの部分もつかみやすくなっており、片手で無理なく引くことができる。
細やかな機能を備えながら、シンプルな造形と落ち着いたカラーリングで、リビングからオフィスまでどのような空間にもマッチ。座面の丸みや背のS字を作り込んだシート形状は美しく、立ち座りがしやすい。
CASE 02:光の反射を抑えた目にやさしいノート
特定の光や色によって受ける視覚のストレスが大きい「視覚過敏」のある方にとっては、紙からの反射がまぶしくて文字が書きにくく、ノートを開くだけで辛い場合も。
「mahora(まほら)ノート」は、白い紙に比べて光の反射を抑えられる13色の国産の色上質紙(いろじょうしつし)の中から、当事者に選んでもらい、まぶしさがもっとも気にならなかった「レモン」「ラベンダー」「ミント」の3色を採用しました。
当事者の意見を徹底的に聞き、その結果を反映してサンプルを改良し、あらためてアンケート調査を実施することを繰り返して生まれた一見シンプルなノートには、たくさんの人の「あったらいいな」が詰まっています。
「罫線が見分けにくく、書いているうちに行が変わってしまったり歪んでしまったりする」という悩みを解消する2種類の罫線。太い線と細い線が5mm間隔で交互に入ったものと、1行ごとに薄い色の付いた網掛けの帯が入ったものから選べる。
「表紙の装飾や中紙に印刷された日付など、余計な情報が気になり集中できない」との声に耳を傾け、表紙には中紙の罫線をシンボリックにしただけのシンプルなデザインを採用。中紙からも日付欄などの罫線以外の情報をすべてなくした。
mahoraノート(大栗紙工)
CASE 03:触って時間を知る腕時計
ガラスの上蓋を開けて文字板と針を直接触り、指で時間を読む腕時計。大事な打ち合わせや会議中、映画館などの暗い場所でもスマートに時間を知ることができます。
開発にはタイにある盲学校の教職員や生徒たちが協力。彼らへのインタビューでわかったのは「健常者と同じように時計をファッションとして楽しみたい」ということ。これまで視覚障がい者が使える時計は限られており、一目で障がい者用とわかってしまうものでした。
聞き取りを繰り返し、試作品ができるたびに判読の時間を測り、デザイン性と正確な判読を可能にする実用性を兼ね備えた仕様に。視覚が不自由な方を含め、誰もが使える時計になりました。
ガラスの上蓋や直接指で触れる文字板は、指紋や凹凸を目立たせないようにマット加工に。インデックスにはカジュアルなフォントを採用し、性別・スタイル・着用場所を選ばないデザインを実現。
12時・3時・6時・9時のポイントを三角形にしたり、時針の先端を矢印にしたりするなど、指で触れたときにわかりやすい工夫が満載。黒×黄のコントラストを際立たせた文字板は弱視の方でも判読しやすい。
視覚障がい者対応腕時計(シチズン)