【デザインのちから】 #2 公園を誰もが楽しく過ごせる場所に

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  • 公開日:2025.04.04

障がいの有無や年齢、性別、国籍などを問わず、すべての人が利用できることを目指した“インクルーシブ公園”が全国に広がりつつあります。インクルーシブデザインに2000年代から取り組んでいる先駆者であり、福岡市の「インクルーシブな子ども広場」の整備に携わる平井教授(九州大学)と、これからの公園のあり方を考えます。

都立明治公園「みち広場」

公園はそもそもインクルーシブな場所

2020年3月に世田谷区の砧公園内に日本で最初のインクルーシブな遊び場「みんなのひろば」がオープンしました。これは障がいのあるお子さんを持つ一人の都議の方の活動で実現したもので、そこから徐々に全国に広がっています。

2023年には福岡市が7つの区すべてに「インクルーシブな子ども広場」を整備することを宣言しました。第一弾が2024年5月に早良区の百道中央公園内にオープンし、他の区でも整備が進められています。

左:砧公園「みんなのひろば」のインクルーシブブランコ(提供:公益財団法人東京都公園協会)/右:「インクルーシブな子ども広場」の整備に向けて勉強会を重ね、提案図をまとめる様子(撮影:平井康之)

上:砧公園「みんなのひろば」のインクルーシブブランコ(提供:公益財団法人東京都公園協会)
下:「インクルーシブな子ども広場」の整備に向けて勉強会を重ね、提案図をまとめる様子(撮影:平井康之)

平井教授がインクルーシブデザインの専門家として、福岡市の「インクルーシブな子ども広場整備指針」の策定に携わる中で気づいたことの一つは、「そもそも公園とは都市の中でインクルーシブな場所である」ということだったといいます。

「検討委員会では、公園は訪れた人々が思い思いの時間を過ごす場所であり、誰もが利⽤できることが大前提だというところから議論が始まりました」と平井教授。

「今回はとくに障がいのある子どもたちが安心して遊べる場所をつくることが目的でした。そのため、事業名にはわかりやすく“インクルーシブ”とあるのですが、みんなが安心して遊べる場所があることが大事という考えから、広場自体の名前にはあえて“インクルーシブ”とは付けていません」

百道中央公園では、元々あった築山を車椅子でも登れるように整備(撮影:平井康之)

インクルーシブな遊び場であるために

インクルーシブデザインについて、平井教授は“みんなでクリエイティブ”という言い方をしているそう。デザイナーだけに任せるのではなく、みんなが単に意見を言うだけでもなくて、アイデアを絵にしたり、手近にある材料で作ったりするところから、いいディスカッションができると考えているといいます。

「要するに、チームのみんなで課題を共有し、共創していくのがインクルーシブデザインです。インクルーシブな子ども広場づくりにおいても、当事者を交えた勉強会やワークショップを重ね、理想の遊び場を形にしていきました」

専用の遊具を置けばインクルーシブな公園だと誤解されることもあるのですが、遊具で遊ぶだけが遊びではないと平井教授は語ります。「たとえば、知的障がいのあるお子さんたちは、同じ行動を繰り返すことが楽しかったりするんです。水に触れたり、チューブの中に物を落としたりするだけでも本人が興味を持てば没入できる。だから、自然や五感を使って遊べる要素は必ず取り入れます」

百道中央公園(撮影:平井康之)

また、公園というハードをつくって終わりではないのだとか。オープンした後に地域のコミュニティとどう運用していくかというのも実は非常に重要で、それがあるのとないのでは、障がいのあるお子さんを持つ親がその公園を使いたいかどうかに大きく影響するといいます。

「先日、インクルーシブな子ども広場を広める活動の一環として、子ども食堂で80人ぐらいの子どもたちと一緒に、公園やイベントで使えるピクトグラムを描きました。そういう活動を通じて、みんなの理解を深め、それぞれに“自分の公園”だと思ってもらうことが大事ですね」

子ども食堂で行った、ピクトグラムをつくるワークショップ(撮影:平井康之)

常に進化を続ける新たな都市公園が誕生

東京建物もインクルーシブな公園づくりに取り組んでいます。2024年1月に全面開園した都立明治公園は、東京都初のPark-PFI事業(※)として、東京建物を代表企業とするTokyo Legacy Parksが整備・管理運営を担当。フィロソフィの一つに「DIVERSITY & INCLUSION(多様性・包括性)」を掲げ、多様な人々が自分らしく憩い、遊び、時を過ごせる居場所づくりを目指しています。
※都市公園の魅力と利便性の向上を図るため、公園を整備・管理する民間の事業者を公募・選定する制度

国立競技場に隣接する都立明治公園は、緩やかに傾斜する地形を生かしながらも、傾斜を感じさせない設計によって車椅子ユーザーでもアクセスできるバリアフリー動線を実現

園内には個性ある3つの広場が整備され、建築とランドスケープが一体となったデザインにより、自然な形で憩えるようになっています。遊具は可動式になっており、利用者のニーズや時代の変化に合わせて配置を変更したり入れ替えたりすることも。在来種の樹木を中心に配植した「誇りの杜」もあり、都心にありながら豊かな自然に包まれています。

左:誰もが遊べる「インクルーシブ広場」。周囲には子どもを見守る親も利用できるよう、ベンチを景観に溶け込む形で配置。右:苗木も植樹し、木々の成長を楽しめる“ハーフメイド”な「誇りの杜」

上:誰もが遊べる「インクルーシブ広場」。周囲には子どもを見守る親も利用できるよう、ベンチを景観に溶け込む形で配置。
下:苗木も植樹し、木々の成長を楽しめる“ハーフメイド”な「誇りの杜」

本プロジェクトでは、企画段階から子育て世代はもちろん、多様な人々と公園の使い方を考えるワークショップを実施。市民の声を反映しながら、コミュニティを盛り上げる多彩なイベントを継続的に開催しています。中でも近隣のまちづくり協議会をはじめ、店舗や教育機関、文化施設などと連携した開園イベント「明治公園祭」は毎年秋の恒例行事に。

また、先進テクノロジーを取り入れたデータ分析を公園運営に反映しているのも特徴です。公園にまつわる多様なデータをモニタリングし、時代により求められる環境へと対応。新たな都市公園のモデルとして、進化し続けることで、誰もが居心地良く過ごせるインクルーシブな公園を目指しています。

「明治公園祭」には地元の団体や学校がブースを出展し、文化祭のように地域の人たちと一緒につくり上げている

インクルーシブな遊び場づくりに正解やゴールはなく、方法論もまだ確立されていないため、それぞれ試行錯誤しながら進められています。今後、さまざまな事例が増えていくことで、誰もが暮らしやすいインクルーシブな社会につながるのではないでしょうか。次回はインクルーシブなプロセスを経て生まれた暮らしまわりのプロダクトをご紹介します。

  • PROFILE

    平井康之さん
    九州大学大学院 芸術工学研究院 教授

    1961年生まれ。京都市立芸術大学卒業後、英国王立芸術大学院修了。日米の民間企業にてデザイナーとしてオフィスデザインや商品開発に携わる。九州芸術工科大学(現・九州大学)准教授を経て現職。現在はインクルーシブデザインをもとにしたソサエタルデザインの実践・研究に取り組む。グッドデザイン賞など受賞多数。
    撮影:川本聖哉