作業療法士の視点で考える、けがを防ぐ住まい方

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  • 公開日:2025.01.15

安心・安全に暮らし続けられる住まいとは? 作業療法士として患者さんの退院後支援という形で家屋調査や住宅改修に携わった経験を生かし、「安全な家づくりアドバイザー」として活動する満元貴治さんに、家の中に潜む身近なリスクと、そのリスクを最小限にする住まい方を教えてもらいました。

転倒・転落事故の多くは「家の中」で起きています

発生場所の約半数は住み慣れた自宅

参照:東京消防庁「救急搬送データから見る日常生活時の実態(令和4年)」

発生場所の約半数は住み慣れた自宅

東京消防庁管内で2018年から2022年までの5年間に、日常生活における事故により救急搬送されたのは「転ぶ」事故が約6割を占め、次いで「落ちる」事故が多く、発生場所としては過半数が住宅などの居住場所となっています。

高齢者にとっては転倒・転落による骨折が寝たきりの原因になるなど、その後の生活に大きな影響を及ぼすことも。人生100年時代。自分も家族も歳を取ることを考えると、現役世代にとっても人ごとではありません。

年齢を重ねたときに生活しやすい環境は、出産や子育てなどライフステージが変わったときにも役立ちます。自分や家族を守るため、将来を見越して、健康なうちに住宅内環境を整えておくことが大切です。

リスクを高める3つの要因

転倒や転落事故が発生する要因は大きく分けて3つあります。❶身体機能や認知機能などが影響する「内的要因」❷住宅内環境などが影響する「外的要因」❸生理学的現象などが影響する「行動的要因」。これらの相互作用によってリスクが変化します。

「喉が渇いて水を飲みたい」「トイレに行きたい」などといった生理学的現象はコントロールが難しいため、十分な睡眠や適度な運動で「内的要因」を減少させつつ、住宅内環境を整えて「外的要因」を減らすことが健康寿命を延ばすことにつながります。

リスクを高める3つの要因

転倒・転落事故のリスクを下げる、住まいの工夫

1. 玄関に靴の脱ぎ履き用の椅子を

1. 玄関に靴の脱ぎ履き用の椅子を

玄関で立ったまま靴を脱ぎ履きすると、片足でバランスを取るため不安定になります。特にバランス感覚が低下しがちな高齢者や、足元が見づらくなる妊婦さんは高リスク。椅子やベンチを用意し、座って靴を脱ぎ履きできるようにしておくことで転倒予防になります。一般的に販売されている座面の高さが40〜45cmのものが推奨です。

2. 寝室の天井照明はリモコン式に

夜中にふと目が覚めてトイレに行くとき、電気をつけているでしょうか。十分覚醒していない状態で歩行して、暗がりの中で足を取られて転ぶ事故が多く発生しています。ベッドや布団から照明のスイッチが離れていると暗い中での移動が必要になるため、シーリングライトはリモコン式のものにし、枕元にリモコンを置いておきましょう。

2. 寝室の天井照明はリモコン式に

3. 廊下に自動点灯の足元灯を設置

3. 廊下に自動点灯の足元灯を設置

廊下にはスイッチを押さなくても自動的に点灯する、人感センサーや明暗センサー付きの足元灯が最適です。スイッチによる人的操作が必要だと面倒だったり、まぶしかったりで照明をつけなかったりするので、意思の有無にかかわらず点灯するように仕組み化することが重要。停電時には非常灯となり、防災設備としても役立ちます。
※Brillia物件では足元灯が標準で設置されています。

4. 収納は無理なく手の届く高さに

椅子や踏み台からの転落は大けがにつながります。椅子や踏み台などに乗らないと手が届かない高さにある収納スペースはなるべく使わないか、取っ手付きの収納ボックスを使って、床に立ったまま取り出せるようにする工夫が必要です。特に非常時はパニック状態になる恐れがあるため、防災用品は必ず取り出しやすい位置にしまってください。

4. 収納は無理なく手の届く高さに

5. 窓の上部に補助錠を取り付ける

5. 窓の上部に補助錠を取り付ける

子どもが知らないうちにバルコニーに出てしまったり、窓から身を乗り出したりして転落してしまう事故が後を絶ちません。子どもから目を離さないようにするなどソフト面での対策には限界があるため、物理的に防ぐ仕組みが必要です。背伸びしたり足場を使ったりしても届かない位置に補助錠を取り付けましょう。防犯対策としても有効です。

6. 室温は18度以上にし、部屋間の温度差にも注意

室温が18度を下回ると短時間でも下肢筋力や歩行速度の低下などの影響で転倒リスクが高まります。また、部屋間の温度差が6度以上になると活動量が低下するというデータも。トイレや脱衣所などにも暖房器具を設置し、温度を設定するだけでなく、実際の室温が18度以上になるように温度計を各所に置いておき、チェックすることがおすすめです。

6. 室温は18度以上にし、部屋間の温度差にも注意

COLUMN

転びにくい体づくりにはスクワットが効果的

筋肉量は20代をピークに25〜30歳頃から低下し始め、年齢を重ねるにつれ減少します。寒い冬は家にこもりがちで活動量も減り、さらに筋力が低下するという悪循環に。立ったり歩いたり体を支える日常動作の基盤は主に下肢の筋肉によって支えられているため、日常生活にスクワットを取り入れて足腰を鍛えるのが効果的です。

住宅内のどこが危険なのか、どういう事故が起こっているのか、まずは事例を知ることが肝心。自宅や実家の住環境を見直して、いつまでも安心・安全に暮らせる住まいをつくりましょう。

  • PROFILE

    満元貴治さん

    作業療法士・安全な家づくりアドバイザー

    1987年広島生まれ。作業療法士として病院に11年勤務し、3,000人以上のリハビリテーション、100件以上の家屋調査・住宅改修に携わる。2021年に病院を退職後、安心・安全な住宅内環境をテーマに活動し、2022年に株式会社HAPROTを立ち上げる。近著に『作業療法士が伝えたい ケガをしない家づくり』(学芸出版社刊)。
    https://www.yoshironoie.com