食事編(1)|非常時でも「いつものごはん」を食べよう

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  • 公開日:2026.04.09

災害時の食事と聞くと、多くの方は「非常食」を思い浮かべるのではないでしょうか。
しかし、私が大切にしているのは「非常時でも、できるだけ普段と同じ食事をとること」です。災害時は心も体も非常に大きな負担がかかるため、慣れていない食べ物や、冷たくて味気ないものばかりが続くと、想像以上に消耗してしまいます。だからこそ、「非常食」に頼りすぎない備え方が大切です。

台風前日のスーパーで感じたこと

2023年7月、台風6号・7号が日本列島に影響を及ぼしたときのこと。大阪にある私の自宅も直撃コースに入っていました。台風上陸前日、リサーチのためにスーパーやコンビニを4軒ほど巡ってみたところ、おにぎり、菓子パン、カップ麺の棚だけが見事に空っぽ。他の商品は残っているのにそのコーナーだけ何もないのです。

「みんな、同じものを求めて動いているんだ」と感じると同時に、こうも思いました。「もし停電しても、家にあるもので温かくておいしいものが作れれば、慌てて店を回る必要はないのに」と。外出して体力や時間を使い、イライラしてしまう。それは、災害時にはできるだけ避けるべきだと改めて思ったのです。

非常食を大事にしまい込んでいませんか?

最近の非常食は本当に進化しています。温めずに食べられるレトルト食品や発熱剤付きのセット、缶詰のパンやケーキなど、バリエーションも豊富です。企業努力は素晴らしいと思います。

ただ、ひとつ気になる点があります。こうした非常食の多くは「普段は食べないもの」であり、「災害の時まで大事に取っておこう」と考えてしまいがちです。その結果、気づいたら消費期限が過ぎてしまうことも珍しくありません。価格が高いこともあり、手をつけづらく、「備えたつもり」で終わってしまう。これはとてももったいないことです。

私が台風前日にわざわざ買い物に行かない理由

私は「台風が来る」というニュースを見ても、基本的に買い物には行きません。それは、たとえライフラインが止まっても対応できるよう、普段から準備を整えているからです。カセットコンロに加え、ポータブル電源があるので、ホットプレートや電気ケトルも使え、家にある食材でいつもと同じようにご飯を作ることができます。

災害時にできることは、普段やっていることだけです。そのため、普段食べないものを「災害用」として、わざわざ買い足すことはしません。「今日は体調が悪い」「今日は買い物に行きたくない」。そんな日でも、家にあるもので何かしら作れる。その状態は、災害時にもそのまま役立ちます。

ひとつの食材で、いくつもの食べ方を考える

「防災メシ」のポイントは、食事にバリエーションを持たせることです。たとえばインスタントラーメン。ラーメンとしてはもちろん、焼きそばにしたり、冷やし中華風にしたり、パスタ代わりに使ったり。

パスタ用のレトルトソースも、麺にかけるだけでなく、調味料として野菜や缶詰と合わせてアレンジできます。缶詰もそのまま食べるだけでなく、他の食材と組み合わせることで、立派なおかずに。料理の幅が広がれば、防災力も高まりますし、日常生活でも役立つスキルになります。

EXPERT’S NOTE

キャンプ用品を普段の調理に使ってみよう

災害時に冷たい食事ばかりでは、心も体も持ちません。私が非常食を準備する際には、「調理すること」を前提に考えています。そのため、電気やガスが停止してもいいよう、カセットコンロとガスボンベのほか、固形燃料や炭などの代わりの熱源、さらにポータブル電源も用意しています。

最近は「おうちキャンプ」を楽しむ人も増え、日常的にキッチンでキャンプ用品を使うのも珍しくありません。メスティンやシェラカップなど、100円ショップにも手軽に試せる調理グッズがたくさんあります。ぜひ普段の生活の中でこうした道具を使って料理してみてください。いざというときに役立つスキルが身につきます。

  • PROFILE

    辻 直美さん
    国際災害レスキューナース

    一般社団法人育母塾 代表理事。国境なき医師団の活動で上海に赴任し、医療支援に従事。帰国後は看護師として勤務する中で阪神・淡路大震災を経験し、実家の全壊をきっかけに災害医療の道へ。国際緊急援助隊医療チーム(JMTDR)で救命救急に携わり、レスキューナースとして活動。現在はフリーランスナースとして、国内各地で講演や防災教育を行い、要請があれば被災地支援にも従事。著書に『レスキューナースが教える 最強版 プチプラ防災』(扶桑社刊)など。