断水編(1)|見落とされがちな災害時のトレイ問題

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  • 公開日:2026.04.09

災害の備えというと、まず思い浮かぶのは「水」や「食料」ではないでしょうか。けれど実際には、早い段階から深刻になるのが「トイレ問題」です。停電や断水によって使えなくなるだけでなく、「行きたくない」「我慢しよう」といった心理的な負担が重なり、健康被害につながることも。避難生活を乗り切るためには、トイレの備えが欠かせません。

発災直後から訪れる「トイレの危機」

2016年の熊本地震後に行われたアンケート調査では、地震発生からわずか3時間以内に約4割、6時間以内には約7割の人が「トイレに行きたくなった」と回答しています。つまり、発災直後から多くの人が排泄の問題に直面するのです。

極度の緊張や不安は排泄欲求を強める要因となります。特に女性や高齢者は、強いストレスによって神経因性膀胱炎を起こしやすい傾向があるといわれています。一方で、避難所のトイレには利用者が集中します。清潔な状態を保つのが難しくなり、不衛生を理由に使用が禁止されることも。トイレを使いときに使えない状況が、心身の負担をさらに大きくします。

水や食料はもちろん大切です。しかし実際には、それよりも早くトイレが必要になるということを、ぜひ覚えておいてください。

「我慢」が招く、深刻な健康リスク

トイレが汚れていると、行きたくなくなりますよね。「なるべく行かなくて済むように、水分摂取を控えよう」と考える方も多いと思います。

しかし、避難生活は数日で終わるとは限らず、1週間以上続くことも珍しくありません。水分を控えると脱水症状を引き起こし、近年の猛暑では熱中症のリスクも高まります。また、血流が滞ることでエコノミークラス症候群を招く恐れも。免疫力が低下すれば感染症にかかりやすくなり、持病が悪化してしまうこともあります。

「たかがトイレ」ではありません。トイレを我慢することは、健康を大きく損ない、命の危険につながる行為になり得るのです。

汲み置き水でトイレを流すのはNG

かつては「地震が起きたら、お風呂に水をためる」と言われていました。水の確保は重要ですが、その水をトイレに流すのは危険です。

主な理由は次のとおりです。
❶きちんと流し切れず、排水管内に汚物が残る。
❷流し切れなかった汚物が排水管内に溜まり、逆流してトイレから爆発的にあふれる。
❸トイレの排水管が破損していると、流した汚水が漏れる。
❹建物全体の排水管が破損している場合、水漏れを起こす。

こうしたリスクから、今では「汲み置きの水でトイレは流さない」ことが防災の基本となっています。

マンションでのトイレ使用の注意点

マンションにお住まいの場合、特に意識しておきたいのが、自分の部屋だけで判断しないこと。マンションのトイレは上下階で配管がつながっています。どこか一カ所でも配管に損傷があれば、流した汚水が下階や別の住戸に漏れ出す恐れがあるのです。

さらに、水流が弱いと汚物が流れ切らず、配管の途中に滞留し、後に逆流する可能性もあります。停電で貯水槽へ水を送るポンプが停止すると、水が出ているように見えても、十分な水圧が保たれていないことがあります。

「水が出ている=使える」とは限りません。災害時は自己判断で流さず、必ず管理会社の指示に従うようにしてください。

EXPERT’S NOTE

家にあるもので「災害トイレ」を用意しよう

トイレの備えの目安は、「1人1日7回×7日×人数分」。4人家族なら、200回分近くも必要になります。市販の簡易トイレだけで備えようとすると、費用が数万円かかることも。家にあるものでも代用できるので、実際に作ってみることをおすすめします。

手軽で実践しやすいのが、「ごみ袋」と「ペットシーツ(または新聞紙や古タオルなど)」の組み合わせ。便器にごみ袋を2枚重ねてかぶせ、中にペットシーツなどを入れるだけ。使用後は上のごみ袋だけを外して口をしっかり結びます。ペットシーツは吸水性が高く、コスパも良いので、ペットを飼っていない人も備蓄しておくといいでしょう。

そして何より大切なのは、一度使ってみること。非常時に初めて使うのではなく、普段の生活の中で試しておけば、いざという時にも落ち着いて対応できます。

  • PROFILE

    辻 直美さん
    国際災害レスキューナース

    一般社団法人育母塾 代表理事。国境なき医師団の活動で上海に赴任し、医療支援に従事。帰国後は看護師として勤務する中で阪神・淡路大震災を経験し、実家の全壊をきっかけに災害医療の道へ。国際緊急援助隊医療チーム(JMTDR)で救命救急に携わり、レスキューナースとして活動。現在はフリーランスナースとして、国内各地で講演や防災教育を行い、要請があれば被災地支援にも従事。著書に『レスキューナースが教える 最強版 プチプラ防災』(扶桑社刊)など。