メンタル編|不安と向き合い、レジリエンス(精神的回復力)を育てる

  • 公開日:2026.09.07

災害は、住まいや暮らしだけでなく、心にも深い影響を与えます。眠れない、気分が落ち込む、ちょっとした音にも驚いてしまう。それらは特別なことではなく、誰にでも起こり得る自然な反応です。今回は、災害時やその後の生活で心を少しでも軽くするために、私が現場で学んだメンタルの整え方をご紹介します。

災害後に起こる「心の揺れ」は自然なこと

被災すると、人の心にはさまざまな反応が起こります。恐怖体験の記憶が突然よみがえる「トラウマ反応」、大切な人や物を失ったことによる「悲嘆反応」、不便な生活や先の見えない状況から生じる「ストレス反応」などです。眠れなくなったり、気分が落ち込んだり、イライラしたり、食欲がなくなることもありますが、これらはすべて正常な心の反応です。

多くの方は、地域の復興や生活の再建が進むにつれて、少しずつ元の状態へと自然に回復していきます。心理的な反応も、時間の経過とともに徐々に落ち着いていくものです。忘れることや落ち着きを取り戻すことに罪悪感を持つ方もいますが、それは前に進むための力を得ている証でもあります。

不安の正体は「未来がわからない」こと

「怖いのは準備が足りないから。不安なのは未来が分からないから。立ち止まっていても何も解決しない。怖くなくなるまで備えなさい」。これは、私がレスキューナースになって間もない頃、先輩からかけられた言葉です。

不安とは、これから起こるかもしれないリスクに対する、脳の働きによって生じるもの。だから、十分な備えができていれば、不安はやわらげることができます。とはいえ、大災害や社会情勢など、自分の力だけでは備えきれない不安もあります。そんなときは、「体」からアプローチするのがおすすめです。

たとえば、無理にでも笑顔をつくると、脳が「楽しい」と錯覚して気分が上がります。頭で考えすぎて行動できないときほど、体を動かしてみましょう。それが不安のループを断つコツです。ラジオ体操を真剣にやってみる、とりあえず歩いてみる。それだけでもかなり心持ちが変わります。

困難から立ち直る、しなやかな回復力

一つ一つのストレスに対処するだけでなく、もともと持っている力を高めることも大切です。「レジリエンス」とは、困難な状況にしなやかに適応し、そこから立ち直る力のこと。近年では災害に対応する自衛隊や消防、警察、医療従事者などの現場で、この力が重視されています。

レジリエンスが高いと、心の状態を早く元に戻せます。これは災害時に限らず、日常のハプニングにも効果的です。私は、寝坊や水をこぼすこと、子どもの幼稚園バスに間に合わないことも、すべて「小さな災害」だと考えています(笑)。そんなときにイライラせず、平常心に戻すことの大切さは、皆さんも経験から感じているのではないでしょうか。

レジリエンスをどう育てるか

レジリエンスが高い人には、次のような特徴があります。
❶失敗を成長のきっかけにできる。
❷落ち込んでも立ち直りが早い。
❸困難なことにも「できる」と挑戦する。
❹自分の強みと弱みを理解している。
❺ありのままの自分を受け入れている。
❻他人と自分を比べすぎない。
❼「ま、いっか」とよく言う。

最後の「ま、いっか」は魔法の言葉。投げやりに聞こえるかもしれませんが、自分の状況を受け入れる強さの表れです。失敗を怖がる人は多いですが、何事も1度目からうまくはできません。最初から完璧を目指すよりも、何度も挑戦する中でうまくなっていくと考えてみください。「失敗」とは「敗れることを失う」と書きます。つまり、最強になれるということ。こうした考え方もレジリエンスの一つです。

日常のちょっとしたハプニングを「プチ災害」と捉えてみるのも効果的です。そこで「イラッ」とせずに「ま、いっか」と言えたら、それは立派な防災訓練です。日常生活の中でレジリエンスを鍛えていきましょう。

EXPERT’S NOTE

私の即効メソッド「3・3・3の法則」

心を整えるために、私が現場でも日常生活でも実践しているのが「3・3・3の法則」です。

❶3秒香る…香りは脳に直接働きかけて、瞬時に気分を変えてくれます。お気に入りの香りを見つけて、3秒間かいでみましょう。
❷30秒触る…手触りのいいタオルやぬいぐるみ、耳たぶなど、触ると安心できるものに30秒間触ってみてください。
❸3分見る…家族やペット、風景など、好きな写真を3分間眺めましょう。スマホの画面よりも紙の写真が効果的です。

「こうすると落ち着く」という成功経験を積んでおくことで、いざというときの「安心スイッチ」になります。自分なりの「香る・触る・見る」アイテムを、今のうちに見つけておきましょう。

  • PROFILE

    辻 直美さん
    国際災害レスキューナース

    一般社団法人育母塾 代表理事。国境なき医師団の活動で上海に赴任し、医療支援に従事。帰国後は看護師として勤務する中で阪神・淡路大震災を経験し、実家の全壊をきっかけに災害医療の道へ。国際緊急援助隊医療チーム(JMTDR)で救命救急に携わり、レスキューナースとして活動。現在はフリーランスナースとして、国内各地で講演や防災教育を行い、要請があれば被災地支援にも従事。著書に『レスキューナースが教える 最強版 プチプラ防災』(扶桑社刊)など。

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