避難編(3)|自宅に留まる「在宅避難」の心得

  • 公開日:2026.08.18

災害が起きたとき、必ずしも避難所に行く必要はありません。特にマンションに住んでいる場合、条件が整えば「自宅に留まる」という選択が、命と暮らしを守る最善策になることもあります。今回は、在宅避難を選ぶために知っておきたい判断基準と、準備のポイントについて解説します。

在宅避難という選択肢

かつては「避難する=避難所に行く」という考え方が主流でしたが、近年では被災状況や住環境に応じて、避難方法を選択することが求められています。その選択肢の一つが在宅避難です。

特に首都直下地震のような大規模災害が起きた場合、避難所の収容人数不足が想定されており、感染症対策の観点からも、在宅避難の重要性が高まっています。また、住み慣れた場所で過ごせることは、ストレスの軽減にもつながる大きなメリットです。

ただし、在宅避難を選ぶには、建物に大きな被害がなく、室内の安全対策もしっかりできていることが前提になります。さらに、ライフラインが止まる可能性もあるため、その備えが必要です。「災害に強い家」であることと、十分な「飲み水と生活用水」や「食料の備蓄」がそろって初めて選べるということを覚えておきましょう。

マンションでは在宅避難が基本となる理由

マンションの場合、火災が発生していなければ、自宅に留まる在宅避難が基本となります。多くのマンションは耐震性に優れているため、建物が無事であれば、外に出るよりも自宅に留まるほうが安全なケースも多いです。

とはいえ、注意点もあります。地震の後はエレベーターが停止することが多く、閉じ込められる危険を避けるためにも、発災直後はできるだけ階段を使いましょう。また、こちらの記事でお伝えしたように、配管が損傷していると、汚水の漏れや逆流が起こる恐れがあります。排水管に問題がないことが確認できるまでは、水を流さないようにしてください。

在宅避難とは、ただ「家にいる」ことではありません。建物の特性を理解した上で、状況を見極めながら判断・行動する避難方法なのです。

休日に在宅避難を体験してみよう

実際に在宅避難を体験してみることで、初めて見えてくる課題がたくさんあります。まずは半日、電気・ガス・水道を使わずに過ごす「在宅避難訓練」から始めてみましょう。慣れてきたら、土曜の朝から日曜の朝までの24時間にも挑戦してみるのがおすすめです。

買い物に行かず、家にあるものだけで食事を用意してみてください。普段あまり使わないカセットコンロで調理してみれば、火加減の難しさに気づいたり、水の使い方にも家族それぞれ違いがあることを実感したりするはずです。

「おうちキャンプ」のような感覚でやってみて、途中で「つらい」と感じたら、そこでやめてもかまいません。終了後は、「何が足りなかったか」「何が不便だったか」を振り返って家族で話し合いましょう。

在宅避難で気をつけたいこと

在宅避難では、避難所にいる人と比べて情報が入りにくく、支援物資の配布情報などを知るのが遅れることもあります。そのため、「情報は自分で取りに行く」という意識が欠かせません。ただし、災害時にはデマやフェイクニュースも広がりやすくなります。普段から災害情報をチェックし、正しい情報を見極める力を養っておきましょう。

また、在宅避難時に必要不可欠なのが、近隣の方との信頼関係です。避難生活からの復興は、一人や家族だけで完結するものではなく、近所との協力があってこそ成り立ちます。そのため、日頃からの挨拶や地域のイベントへの参加も、防災の一つと言えます。余裕があれば地域活動に関わり、顔のみえる関係を築いておくことも大切です。

まずは自分と家族を守る「自助」から始め、少しずつ周りと助け合う「共助」へ。そうした積み重ねが、災害からの復興を支える力になります。

EXPERT’S NOTE

在宅避難を始める前に、必ず建物の安全を確認

揺れがおさまったら、まず家の中の状態を確認します。このとき、いきなり片付けを始めないように注意してください。地震保険の申請には、被害状況を記録した写真が必要になります。

室内の安全確認が終わったら、次は外のチェックを。玄関ドアや窓周りに亀裂や傾きがないか、地盤が緩んでいないかも確認しましょう。マンションでは、非常階段の安全やエキスパンションジョイント(建物同士のつなぎ目)のずれなども確認が必要です。

実際に大阪府北部地震の際、私の住むマンションでは室内に被害はありませんでしたが、外壁に亀裂が入り、エキスパンションジョイントが落下。廊下が分断され、孤立した棟がありました。建物全体の安全が十分に確認できてから、在宅避難を始めるようにしてください。

  • PROFILE

    辻 直美さん
    国際災害レスキューナース

    一般社団法人育母塾 代表理事。国境なき医師団の活動で上海に赴任し、医療支援に従事。帰国後は看護師として勤務する中で阪神・淡路大震災を経験し、実家の全壊をきっかけに災害医療の道へ。国際緊急援助隊医療チーム(JMTDR)で救命救急に携わり、レスキューナースとして活動。現在はフリーランスナースとして、国内各地で講演や防災教育を行い、要請があれば被災地支援にも従事。著書に『レスキューナースが教える 最強版 プチプラ防災』(扶桑社刊)など。

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