Time&Styleと考える、家具から広がる豊かなつながり【前編】

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  • 公開日:2025.06.25

住まいの中に自然を取り入れることで、環境や地域との新しい関係を築く一歩に。自然素材や伝統技術を生かしたものづくりに取り組む家具ブランド〈Time & Style〉とともに、東京建物が長野県で進める〈Brillia〉のプロジェクトが動き出しています。インテリアを通じて社会課題に向き合おうとする試みで、モデルルームには長野県産の木材を使った家具やアートが並び、共用スペースにも展開予定。前編では関係者の座談会から、地域資源を生かしたものづくりや、これからの暮らしのヒントを探ります。

BrilliaとTime &
Style、長野での協業が生まれるまで

――今回、BrilliaとTime & Styleが協業するに至った経緯を教えてください。

水村(東京建物):最初の出会いは2年前、北海道・旭川で開催された「ASAHIKAWA DESIGN WEEK」でした。全国からデザインやインテリア業界の関係者が集まる大規模なイベントで、その際にTime & Styleさんの自社工場を見学させていただきました。

吉田(Time & Style):私たちは2007年に自社工場を立ち上げました。それ以前は全国の協力工場と連携して製品をつくっていましたが、自社工場を持ったことで、素材の選定から製品化まで一貫して手がけられる体制が整いました。そこから、国産木材への関心も一層高まっていきました。

水村:Time & Styleさんの国産木材へ熱意と、持続可能なものづくりに向き合う真摯な姿勢に、私たちも強く共感しました。ちょうど当社でも国産木材の活用を本格的に進めようとしていたタイミングだったこともあり、「ぜひ長野のプロジェクトでご一緒できないか」とお声がけしたのが始まりです。

末永(東京建物):Time & Styleさんは道産の丸太を自社で仕入れ、乾燥、製材まで手がけられていらっしゃいますよね。さらに、製材の過程で出た端材も無駄にせず、活用されていたのが印象的でした。

Time & Styleの自社工場がある旭川は、世界でも有数の良質な木材が育つとされる「北緯43度」の地域

自社工場では、約30名の職人が受注品を一つひとつ丁寧な手仕事で仕上げている

吉田:日本の家具づくりの7〜8割は、海外産の木材に頼っているのが現状です。実は、2007年に自社工場を立ち上げた当初は、私たちも国産の木材はほとんど使っていませんでした。私は山登りやスキーが好きなのですが、アウトドアに親しむ中で「こんなに身近に木があるのに、なぜ使えないのか?」という疑問が湧き、各地の森林組合や自治体が管理する森を訪ね歩くようになりました。

調査を重ねるうちに、日本には想像以上に多くの森林資源があることがわかってきました。ただ、それらの木材は流通経路が見えにくく、私たちが直接手に入れるのは難しい状況でした。たとえば、北海道で伐採される広葉樹の95%以上は、燃料やチップとして使われていました。

水村:家具への活用には向かないのでしょうか。

吉田:「細い」「曲がっている」などといった理由で燃料やチップ用とされていましたが、実際には家具にも十分に使える素材です。だったら自分たちでやろうと、2016年に自社で製材機と乾燥機を導入する決断をしました。家具ブランドがここまで踏み込むのは、ここ数十年では例のない挑戦だったと思います。現在は「国産材100%」を目指して取り組んでおり、すでに7〜8割まで達成しています。

旭川は特に広葉樹が有名な地域。冬はマイナス20~25度にもなる厳しい寒さの中、木はゆっくりと育ち、密度の高い良材が生まれる

地元の木で、地元の手で。長野県産材を使った家具づくり

――今回のプロジェクトで誕生するプロダクトとは?

水村:今回は、Time & Styleさんの既存製品を、長野県産材を使って製作していただきました。デザインはそのままに、使用する木材を地域の素材に置き換えるというアプローチです。

末永:長野プロジェクトについてお話しした際に、長野にもつながりがあることを伺いました。早速、現地の製材所をご案内いただき、話が具体化していきました。

吉田:実は2年ほど前、長野県の森林組合が主催する木材の競りに参加し、栗の丸太を先行して購入していました。そのご縁もあり、地元の製材所と連携し、製材から乾燥までを地域内で一貫して行う体制を整えることができました。ここ5~10年ほどで、できるだけ地域の中で完結する生産体制を築いており、私たちはこの取り組みを「地材地工(ちざいちこう)」と呼んでいます。

国産木材に向き合う熱意を語る、Time & Style専務の吉田さん

「モデルルームに設置するソファの脚にも、長野県産の木材を使っているんですよ」と話すTime & Styleプランナーの飯島さん

田中(Time & Style):今回採用したのは、長野でよく採れる栗の木です。栗はタンニンを多く含み、鉄水仕上げとの相性が非常に良いんですよ。また、チャコールグレーのような落ち着いた色合いが美しく表現できるため、仕上げ方法も含めてご提案させていただきました。

末永:その土地で育った木は、その地域の気候に適応しているので、使う環境にも自然となじみやすく、長持ちするという利点があると伺いました。さらに、地元の木を使うことで「愛着」が生まれる気がします。

吉田:輸送の面でも、環境への負荷を抑えられます。たとえば、アメリカから木材を輸入して家具をつくり、それをまた輸出するような流れでは、非常に長い輸送距離が発生します。そうした距離をできるだけ短くする「ウッドマイレージ※1」の考え方は、これからますます重要になってくると思います。

さらに、木材の伐採から製品化までの各工程で、どれだけCO2を排出しているかを可視化する「プロダクト・フットプリント※2」も、持続可能性を測るうえで欠かせない指標です。私たちとしても、そうした点に配慮しながら、地域と連携したものづくりをこれからも進めていきたいと考えています。

※1 ウッドマイレージ……木材が伐採地から使用地まで輸送される過程で生じる環境負荷の大きさを示す指標。
※2 プロダクト・フットプリント……製品がライフサイクルを通じて環境に与える影響を数値で示す指標。

座談会の会場は、東京・港区「東京ミッドタウン」内にあるショールーム「Time & Style Midtown」。モデルルーム全体のコーディネートもTime & Styleが手がけている

手仕事から生まれる、家具の本質的な魅力

――Time & Styleさんは、手仕事を大切にされているそうですね。

吉田:はい。私たちは、機械任せにするのではなく、人の手によるものづくりを大切にしています。それは、環境への負荷を抑えるという点でも意義のあることだと考えています。

末永:細部の収まりの繊細さも、手仕事ならではの技巧を感じました。

吉田:中でも、最も手仕事の比重が大きいのが「研磨」の工程です。家具を組み上げた後、表面を丁寧に整える作業ですが、これがほとんど手作業なんです。多くのメーカーでは効率を優先して短時間で済ませてしまうことが多いのですが、私たちはむしろ、その部分にこそ時間と手間をかけるべきだと考えています。研磨の仕上がり次第で、その後の塗装や最終的な質感が大きく左右されますから。

水村:旭川の工場を見学させていただいた際、研磨の前と後で家具の美しさや触り心地がまったく違っていて、本当に感動しました。

滑らかで美しい表面は、職人の丁寧な研磨によるもの。天板や脚の角も、手作業で研磨して丸みを持たせている

吉田:今年の4月にイタリア・ミラノで開催された世界最大の家具見本市「ミラノサローネ」に出展したのですが、会場では多くの来場者が実際に私たちの家具に触れて、その感触を確かめてくれていました。

末永:「触れてみたい」と思わせる、そんな魅力がありますよね。

吉田:まさに、それが私たちにとって一番うれしい瞬間です。「この仕上げはどうやっているの?」「この木は日本のもの?」と、たくさんの質問もいただきました。無垢材ならではの存在感や、丁寧な仕上げによって引き出された素材の魅力が、今あらためて世界で注目されていることを実感しました。

末永:表情だけではない、木が持っている本来の質感が求められている時代なんですね。

吉田:そう感じています。ここ20〜30年で、ものづくりの流れは大きく変わりました。北欧をはじめとするヨーロッパでは、かつて当たり前だった手仕事が失われつつある一方で、日本では工芸や職人の技が今もなお受け継がれています。そうした文化が守られてきたという点で、日本は本当に幸運です。これからの時代、日本の手仕事やものづくりの精神は、ますます評価されていくと確信しています。

Time & Styleプランナーの田中さんが紹介するのは、雪洞(ぼんぼり)をイメージした照明「Bombori」。モデルルームの寝室に採用されている

無垢材の木枠に貼られているのは、美濃の手漉き和紙。機械生産では再現できない、手仕事ならではの繊細さが感じられる

使い続ける家具、住み続ける家の心地よさを感じて

――モデルルームを訪れる方や、実際に住まわれる方へ、メッセージをお願いします。

飯島(Time & Style):今回のモデルルームでは、さまざまな素材を取り入れています。それぞれが持つ個性や魅力を、日々の暮らしの中で感じていただけたらうれしいですね。素材は時とともに表情を変え、暮らしやライフスタイルの変化とともに、家具や空間も少しずつ味わいを深めていきます。キズひとつにも思い出が宿るものですし、「育てていくインテリア」として、手をかけながら楽しんでいただけたらと思います。

末永:モデルルームは木工・紙漉き・焼き物など、伝統的な素材や技法が織りなす文化の香りを感じさせる、情緒豊かな空間となっています。だからこそ、空間全体の“雰囲気”を味わっていただきたいですね。ただ見るだけではなく、その空気感や居心地を肌で感じていただけたらうれしいです。

田中:私はぜひ“触れて”いただきたいと思っています。特に木の質感は、直接手で触れることでその魅力がより深く伝わります。たとえばウレタン塗装の家具でも、素材の風合いを生かすように工夫していて、木の表情が見える仕上げにしています。そうした違いは、やはり触れてこそ感じられるものだと思います。

水村:実際にモデルルームに足を運んでいただくと、「この空間が自分の暮らしにあったらどうだろう?」と、自然と想像が膨らむと思います。ぜひ家具やアートに触れて、椅子に座ってみて、自分の生活と重ね合わせながら体験してみてください。そうしたリアルな体験を通して、「暮らしと環境貢献の柔らかなつながり方」を感じていただけたらと思っています。

吉田:私たちはこの空間を、「建物の中にいながら森を感じられる場所」にしたいと考えてつくっています。家具や内装、空間全体が放つ雰囲気から、木のぬくもりや自然の息吹を感じ取っていただけたらうれしいです。そして何より「長く使い続けること」「長く住み続けること」こそが、最も確かな環境貢献だと信じています。環境への配慮がますます求められる時代にあって、この空間がその一助になればと願っています。

左から東京建物 住宅エンジニアリング部 水村真奈さん・末永 愛さん、Time & Style 専務 吉田安志さん、プランナー 田中周作さん・飯島絵奈さん

後編では、デザインへのこだわりや、ものづくりにおける地域とのつながりについて掘り下げます。また、アート制作の現場レポートもお届けします。お楽しみに。

  • INFORMATION

    株式会社プレステージジャパンが手がける家具ブランド。1990年にベルリンで創業し、1992年に日本法人を設立。現在、国内6カ所に加え、アムステルダムとミラノにショールームを構える。日本の伝統技術を現代の生活に進化させるというデザインコンセプトのもと、永く使い続けることができ、素材が持つ手触りを大切にしたものづくりを追求している。
    https://www.timeandstyle.com/jp/

本取り組みが導入されている〈Brillia 長野北石堂 ALPHA RESIDENCIA〉の公式サイトはこちら
https://nagano.brillia.com/