【アーバンスポーツを楽しむ!】
#3 フリークライマーが抱く思い

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#3 フリークライマーが抱く思い

道具を使わず体一つで人工の壁を登るスポーツクライミング。近年、クライミングジムが増え、アーバンスポーツとして人気ですが、そのルーツは自然にあります。今回は、世界の岩場やコンペで数々の功績を残す、フリークライマーの平山ユージさんにインタビューし、その魅力をひもときます。

Photographs: Hideki Otsuka

道具に頼らず、
身体的な可能性を
追求する

ークライミングを始めたきっかけは?

ークライミングを始めたきっかけは?

元々は登山から入っていて、ヒマラヤとかに行きたくて、その一環として岩登りを始めたんです。でも、たまたま教えてくれた方がフリークライミングの第一人者で。「フリー」というのは道具に頼らないで登るという意味。その方との出会いがきっかけでフリークライミングに惹かれていきました。

従来の登山のスタイルとしては、岩を登る際は何を使ってもいいというのが主流だったんですが、道具を使えばどこでも登れてしまう。道具を排除して、自分の技術や成長で難しい岩が登れるようになるフリークライミングのほうに魅力を感じたんです。

ーアウトドアからインドアへ、クライミングはどのように発展していったのでしょうか?

ーアウトドアからインドアへ、クライミングはどのように発展していったのでしょうか?

ちょうど1980年代の初めから自然の岩場でのフリークライミングが国内で広がってきて、90年代から競技としてのスポーツクライミングが徐々に増え、世界大会もどんどん開かれるようになりました。

日本の環境では高さのある壁を登る「リード」や「スピード」のできる施設はなかなか広まらず、狭い空間でもできる「ボルダリング」の施設がどんどん増えていきました。だから、日本ではクライミングというとボルダリングのイメージになっていますね。

今回インタビューに訪れたのは、平山さんが運営するクライミングジムの一つ
「Boulder Park Base Camp 飯能」(埼玉県飯能市)。

クライミングは成長するためのツール

ークライミングの楽しみ方とは?

いろいろな国に行って登って感じたのは、それぞれの国の事情や文化的背景によって、クライミングのあり方が随分違うんですよね。ヨーロッパやアメリカではアウトドアに親しむ人たちがそれなりに多くて、クライミングは自然の中での遊びの一つとしての位置付けです。

欧米ではそういった意識が深く根付いていたから、人工の施設がポンってできてもみんなすっと入ってきて、アウトドアの延長で来ているように思います。アメリカだとフィットネス感覚で登りにくる人も結構いますよ。アジアの国々だと競技志向が強いですね。

ークライミングの楽しみ方とは?

ー平山さんご自身はどうでしょうか?

日本では求道心というか、「うまくなりたい」「より難しいものを登りたい」という人たちが多いと思います。僕もそうです。自分自身を高める一つの方法として捉えています。ただ、長年やっていると楽しみ方は広がってきていて。

17歳で初めてアメリカのヨセミテに登りに行ったんですが、その頃はいろんな経験をして人生が大きく変わっていく転換期だったので、そういった場所を改めて訪れて、今の55歳の目線で見てみたいなと思っています。それが今やりたいことの一つです。結局自分はまだまだ成長したいんだなと。クライミングはそのためのすごく重要なツールだという感じがしますね。

クライマーの聖地「ヨセミテ国立公園」。高さ約900mの花崗岩の一枚岩「エル・キャピタン」がそそり立つ。

ー平山さんご自身はどうでしょうか?

周りの人とつながるきっかけに

ー現在、ジムの経営や町おこしにも携わっていると伺いました。

ー現在、ジムの経営や町おこしにも携わっていると伺いました。

その時々で目の前にあることに没頭してきました。ただ、基本的には自分がクライマーとしてアウトドアで登りたいという思いがあって、そのためにはトレーニングするインドアのジムや環境が必要という図式です(笑)。

外岩でのクライミングってその地域・地元の人たちの理解があって成り立つもので、マナーを守り、地元の人たちに受け入れてもらう必要があるかなと。そのためにはクライマーの往来が生む経済効果が一番。それで、町に活気がみなぎるような、町おこしのお手伝いをしたりしています。

町おこしの一環として平山さんがオープンに携わった町営クライミングジム「クライミングパーク神怡舘(しんいかん)」(埼玉県小鹿野町)。唐代の寺院をモデルにした記念館の外観をそのまま残している。

ークライミングの魅力とは?

ークライミングの魅力とは?

今の時代、「個」で完結している場面が多いと思うんです。電車に乗っていても、他人に話しかけるなんてことはないですし。でもクライミングでは、一つの「ルート」や「課題」を目の前にすると、知らない人同士でも話し合うきっかけが生まれるんですよ。趣味を介すと年齢や性別や人種を問わず、つながるのがすごく簡単なんです。

そういうコミュニティが結構重要なんだなって最近は思っていて。ボルダリングはより楽しい人生を導いてくれるものだと思うので、お住まいの近くにボルダリングジムがあったら、仲間づくりとか、飲み友達づくりでもいいですし、ぜひそういうきっかけにしてほしいですね。

  • PROFILE

    平⼭ユージさん

    フリークライマー

    15歳でクライミングを始め、10代の若さで国内トップに。その後、渡仏して欧州でトップクライマーとして活躍。1998年、2000年と2度のワールドカップ総合優勝を果たす。2010年にクライミングジム「Climb Park Base Camp」を設立。近年では解説者として競技の魅力を伝えるほか、地域振興にも尽力する。
    https://yuji-hirayama.com/