【ガラスのある風景】
#1 ガラスの奥深さに魅せられて

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【ガラスのある風景】#1 ガラスの奥深さに魅せられて

ガラスは古くから私たちの身近にあり、さまざまなシーンで触れることの多い素材。暮らしを彩る魅力的なガラス製品は、どのように生まれているのでしょうか。1932年の創業以来、手仕事にこだわり続けるガラスメーカーSghr スガハラの工房を訪ねました。

Photographs: Yoshiharu Otaki

美しい瞬間を捉えて形にする職人技

千葉県九十九里にスガハラの工房を訪れたのは新緑の季節。外の爽やかさとは一変して、工房に足を踏み入れると、熱気が立ち込めていました。中央の炉に近づくほどに熱さを増す空気。炉の中には10本の坩堝(るつぼ)が設置され、約1,400度に熱せられてどろどろに溶けたガラスが入っています。

坩堝にガラスの原料を入れ、約12時間かけて煮溶かして使う。夏場は室温が50度近くに。

ガラスの主原料は珪砂(けいしゃ)という天然の砂。約1,400度まで熱すると溶けて水あめ状になります。竿と呼ばれる鉄パイプに溶けたガラスを巻き取り、息を吹き込んでさまざまな形に。グラスや型物は温め直さず、吹き込む息の調節だけで一気に成形します。

最初に土台となる「下玉(しただま)」をつくり、その上から製品に必要な量のガラスを巻き取る。

2色のガラスを重ねてつくるグラス「DUO」。ガラスの色は原料の配合によって決まる。

ガラスは約600度まで温度が下がると固まります。その間1分もないため悩んでいる時間はありません。刻々と変化するガラスの状態を見極めて自在に扱えるようになるには、熟練の技が必要です。そのため、ガラス職人として一人前になるまでには約10年かかるのだそう。

スガハラを代表する職人の塚本 衛さん。「毎日ガラスに触れていたい」と語る。

その日の気温や湿度によっても、ガラスの粘度や硬さは異なってくる。

ベテランの塚本さんがこの日つくっていたのは、流れるようなフォルムが美しい一輪挿し。職人歴50年を超えた現在でも、「もっといいものができるはずだ」と、ガラスに対する探究心は尽きません。人の手で完全にコントロールできないからこそ、思わぬ造形や色彩に出合える。ガラスという素材は可能性を秘めています。

ハートをモチーフにした一輪挿し「HEART CURVA」はフリーハンドで形づくる。

手仕事が支えるものづくりの現場

スガハラの製品はプロダクトとしての完成度が高く、一見ハンドメイドだとわからないほど。クオリティを保ちつつ量産するには、職人一人一人の技術の高さはもちろん、チームでの連携が欠かせません。一つの製品をつくるには、2〜4人体制で製造工程を分担。毎日つくるアイテムを変え、多彩なラインナップを展開しています。

各自が黙々と作業する姿が印象的。言葉を交わさずとも連携が取れ、流れるように作業が進む。

ガラスを成形するための道具。

製品の形になり、固まったガラスは竿から切り離され、「徐冷炉(じょれいろ)」に運ばれます。この時点では約500度。室温まで急激に冷えると温度差で割れてしまうため、ベルトコンベア式の徐冷炉の中を2時間半かけて移動させながら、ゆっくり冷まします。

徐冷炉から出てきたばかりのガラスを触ってみるとまだ温かい。

冷めたガラスは階下の加工場に運ばれ、まずは余分な部分をカット。切り口は鋭利で危険なので研磨して平らに。さらにバーナーで焼いて滑らかにします。炙って一部が高温になった製品の温度を均一にするため、いったん約500度の窯へ入れ、再び時間をかけて冷まします。

水で濡らしながらヤスリに押し当て、断面を整える「口摺り」の工程。

ヤスリで研磨した断面を熱で溶かして角を丸める「口焼き」。

ガラスが冷めたら洗浄し、検品を合格したものだけにレーザーでロゴ(Sghr)を刻印して完成。実に多くの職人の手を経て、一つ一つの製品がつくられていました。次回は暮らしに溶け込み、彩りを添えるスガハラのデザインをひもときます。

  • INFORMATION

    菅原工芸硝子株式会社

    1932年に創業し、1970年代より自社開発と自社販売を始める。創業以来、職人によるハンドメイドでガラス製造を行っている。千葉県九十九里の本社敷地内には工房のほかに、カフェやファクトリーショップを併設。オンラインでの工房見学(要予約)も好評。
    https://www.sugahara.com