マナーの本質は、相手を大切に思う心を、作法に則ることで相手に伝わるカタチで表現すること。共通言語としてのマナーがあるからこそ、思いやりの心を相手に伝えられます。
また、決まった作法があることで、その場面での適切な振る舞い方がわかり、安心感が生まれて相手を気遣う余裕が持てます。マナーは堅苦しいもの、古くさいものではなく、人間関係を円滑にする先人たちの知恵なのです。
現金を贈ったり、手渡したりする際にはさまざまな約束ごとがあり、どのようにすればいいか迷うことも。形式的に思えるマナーにもすべて理由があります。お金にまつわる作法が生まれた背景を知って、マナーを味方に。自分らしく振る舞うヒントをお届けします。
「思い」を「カタチ」にして託す
マナーの本質は、相手を大切に思う心を、作法に則ることで相手に伝わるカタチで表現すること。共通言語としてのマナーがあるからこそ、思いやりの心を相手に伝えられます。
また、決まった作法があることで、その場面での適切な振る舞い方がわかり、安心感が生まれて相手を気遣う余裕が持てます。マナーは堅苦しいもの、古くさいものではなく、人間関係を円滑にする先人たちの知恵なのです。
現代に受け継がれる贈り物のカタチ
古来、日本では農作物などを和紙で包み、こよりで結び、神様に奉納していました。これが宮中での儀式や武家の礼儀作法により少しずつ変化しながら、贈答品を包む文化として広まったといわれています。
明治期以降、お札が流通するようになり、現金の贈答が一般化します。かつては各自で紙幣を和紙で包み、水引を結び、熨斗(のし)を添えて贈り物としての形を整えて贈っていました。
現代では、あらかじめ水引や熨斗包が印刷された金封(祝儀・不祝儀袋)を購入して使うのが一般的になりました。自分で作ってみると、世界に一つだけの心のこもった贈り物になります。
清浄を表す真っ白な奉書紙*で包むのがフォーマル。祝儀の場合、「幸せを受け取れるように」「天を仰いで喜ぶ」などの意味から、裏の折り返しを上向きにして重ねます。不祝儀の場合は「悲しみを受け流す」「頭を垂れて悲しむ」などの意味から裏の折り返しを下向きに。
*奉書紙……高級な和紙の一種で公用紙として使われている。
古代の日本では「結ぶ」ことに対する信仰がありました。水引の結び目には願いが込められており、引けばほどける蝶結びは何度あってもいいお祝いごとに、引いてもほどけない結び切りは繰り返してほしくないことに用います。用途によって色や本数も使い分けます。
熨斗の語源は熨斗鮑(のしあわび)です。貴重で栄養価が高く日持ちすることから、かつては不老長寿の象徴として、薄く伸ばして干した鮑を贈り物に添えていました。現代では模した紙を付けたり、図案化して印刷した掛け紙や封筒を使ったりするのが一般的です。
お金を贈る際の基本のマナー
多くの人の手を経たお金は不浄だとされ、お金を贈る際は新札を用意するのが基本。香典には新札はタブーですが、使い古しは避けましょう。封筒へ入れる際は肖像が印刷されている面を上に、正面を向くように。中袋には封をしないのもちょっとした気遣いです。
昔から「奇数吉、偶数凶」といわれ、喜びごとには奇数、悲しみごとには偶数が用いられてきました。古代中国の陰陽思想が由来とされています。割り切れる数は別れを連想するとも。婚礼では「2」はペアなので良しとされていますが、お札の枚数は奇数にしましょう。
表書きは贈る目的や贈り主を明示するためのもの。元々贈り物には目録を付けており、現金を贈る場合は贈りたい品を書いていました。これに使ってほしいという思いがあれば、表書きに「ランドセル料」などと具体的に書いてもかまいません。
お金は大切なものですが、そのままだと生々しい感じがあります。人に渡すときはなおのこと。支払い以外のお金は裸で渡さないのがマナーです。立て替えてもらったお金を返す際や心づけを渡す際など、封筒やポチ袋に入れて見せない配慮を。
急で封筒などがない場合は懐紙に包んで渡すのがスマート。懐紙とは小さめの和紙のことで、着物が普段着だった頃は懐に入れて持ち歩き、ティッシュやハンカチ、メモ帳代わりに使われていました。一枚で多彩に使える懐紙を日常に取り入れてみるのもおすすめです。
しきたりには諸説あり、各地・各家の伝統や習わしによって異なります。時代によっても変化していくもの。
マナーに「正解」はありません。迷ったら相手への「思いやり」を起点に考えてみましょう。
岩下宣子さん
マナー講師
1945年東京都生まれ。共立女子短期大学卒業。キッコーマン株式会社入社。全日本作法会、小笠原流のもとでマナーを学び、1985年に現代礼法研究所を設立。企業や学校、団体などでマナーの指導を行う。『77歳の現役講師によるマナーの教科書 本当の幸せを手に入れるたったひとつのヒント』(主婦の友社刊)など著書・監修書多数。