英国流のおもてなし文化を体現
19世紀イギリス、ヴィクトリア時代に上流階級の社交文化として広まったアフタヌーンティー。その源流をさかのぼると、東洋の茶や日本の茶の湯への憧憬にたどり着きます。茶事と同様に自宅にゲストを招き、季節やテーマに合わせたコーディネートで出迎え、心を尽くしてもてなすのがアフタヌーンティーの正式なスタイル。「もてなしの心」という精神性に、茶道と通ずるところがあります。
香り高い紅茶と共に優雅な午後のひとときを過ごすアフタヌーンティーは、イギリス発祥の紅茶文化です。アフタヌーンティーをより楽しむための知識や作法を、英国紅茶・アフタヌーンティー研究家の藤枝理子さんに教えてもらいました。
Photographs: Yuko Kawashima
茶道に通じる
「おもてなしの心」
と「しつらいの美」
19世紀イギリス、ヴィクトリア時代に上流階級の社交文化として広まったアフタヌーンティー。その源流をさかのぼると、東洋の茶や日本の茶の湯への憧憬にたどり着きます。茶事と同様に自宅にゲストを招き、季節やテーマに合わせたコーディネートで出迎え、心を尽くしてもてなすのがアフタヌーンティーの正式なスタイル。「もてなしの心」という精神性に、茶道と通ずるところがあります。
茶道では掛け軸や花などをはじめ、亭主がさまざまな趣向を凝らしてしつらえた道具や茶室といった「総合芸術」を味わいながらお茶をいただきます。アフタヌーンティーも同じく、建築様式やインテリア、ガーデニング、陶磁器、銀器、音楽などのコーディネートをトータルで愛でるもの。単においしい紅茶とお菓子を味わうグルメではなく、五感で堪能する「アート」なのです。
現代のアフタヌーンティーは形を変えつつ、カジュアルにも楽しまれており、日本でも人気を博しています。アフタヌーンティーといえば3段重ねのティースタンドが思い浮かびますが、アフタヌーンティーが生まれた19世紀初期には使われていませんでした。20世紀に入ってからホテルやティールームでアフタヌーンティーが行われるようになり、サービスを簡素化するために誕生。現在ではアフタヌーンティーを象徴するアイテムとなっています。
知っておきたい
アフタヌーンティーの作法
英国式の茶道ともいえるアフタヌーンティーには多くの決まり事があります。アフタヌーンティーを楽しむために基本的なマナーを覚えておきましょう。
利き手にかかわらずティーカップは右手で持ちます。ハンドルに指を通さず、親指から中指でつまむように持つとエレガント。ハイテーブルの場合はソーサーには触れずにティーカップだけを持ち、ローテーブルの場合はソーサーごと胸の高さに持ち上げ、左手でソーサー、右手でティーカップを持ちます。
ティースプーンはティーカップの右側に縦向きでセッティングします。ミルクや砂糖を入れる際はティースプーンを使って音を立てずに混ぜて。使い終わったティースプーンはソーサーの向こう側に、柄を右にして上向きに置いておきます。
コース料理に順番があるように、アフタヌーンティーもセイボリー(塩気のある軽食)、スコーン、ペイストリー(甘いお菓子)の順に食べ進めます。3段スタンドに載ったティーフーズは下の段から食べるのがマナーといわれることもありますが、見映え優先で盛り付けられている場合もあるので要注意。
ティーフーズは必ず自分のプレートに取り分けてからいただきます。手でつまめるサイズのフィンガーフードはカトラリーを使わずに左手で。手に付いた油分でティーカップのハンドルが汚れたり、滑りやすくなったりするのを防ぐため、「飲みものは右手、食べものは左手」と使い分けます。
茶道に流派があり作法が少しずつ異なるように、アフタヌーンティーのマナーも階級や地域によって違いがあります。同じテーブルを囲む人への配慮を忘れずに、心地よい時間と空間を共有したいという気持ちが大切です。
次回はおうちでアフタヌーンティーを楽しむための方法をご紹介します。
藤枝理子さん
英国紅茶・アフタヌーンティー研究家
大学卒業後、ソニー株式会社ビジネス企画部に勤務。結婚後、紅茶好きが嵩じてイギリスに紅茶留学。帰国後はサロン形式の紅茶教室「エルミタージュ」を主宰。現在、テレビ・雑誌などのメディアで活躍するほか、大学の非常勤講師や企業のコンサルタントも務める。『仕事と人生に効く教養としての紅茶』(PHP研究所刊)など著書多数。
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