【巨大建造物を訪ねて】
#3 土木・産業遺産に
触れる旅へ

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巨大建造物を訪ねて

インフラツーリズムの新たなカタチとして「トンネルツーリズム」を提唱するのは、トンネルツーリズムプランナーであり、総務省 地域力創造アドバイザーでもある花田欣也さん。日本各地のトンネルを歩き、さまざまなメディアでその魅力を発信しています。今回は土木・産業遺産であるトンネルを軸に、インフラツーリズムの魅力や楽しみ方について教えてもらいました。

インフラツーリズムの始まりとは?

安中市観光機構が主催する「信越本線新線をゆく 廃線ウォーク」の様子。国重要文化財に指定されている旧碓氷峠鉄道施設を巡るガイドの解説付きツアーで、「廃線ウォーク」の草分け的存在。
https://haisen-walk.com/

10年ほど前からダムや発電所、トンネルなど、本来、一般の人は立ち入り禁止となっている公共土木施設やその建設現場が公開されるようになってきました。近隣の地域に住む人はもちろん、多くの人に工事の趣旨や、施設が世の中にどう役に立っているかを周知する手法として、インフラツアーが行われるようになったのです。

また、土木に携わる人が減ってきていることを背景に、土木技術職を志す人を増やす目的もあり、国土交通省がポータルサイトを立ち上げてインフラツーリズムを推進しています。それによって、近年、インフラツーリズムに取り組み、さまざまな工夫を凝らす施設が増え、インフラツアーが充実。年々人気が高まっています。

安中市観光機構が主催する「信越本線新線をゆく 廃線ウォーク」の様子。国重要文化財に指定されている旧碓氷峠鉄道施設を巡るガイドの解説付きツアーで、「廃線ウォーク」の草分け的存在。
https://haisen-walk.com/

 

五感に響くインフラ
ツーリズムの魅力

01

自然を満喫する

インフラ施設は自然の中に位置することが多く、たどり着くまでに豊かな自然が広がっています。自然の中を歩くとそれだけで気持ちがいいですし、きれいな景色を写真に撮れたり、レールバイクなどの乗り物に乗れたり、楽しい仕掛けがあったりするところも。

インフラツーリズムの一種に、鉄道廃線を歩く「廃線ウォーク」というものがあります。渓谷を渡る線路からの眺めはもちろん、途中にあるトンネルの中から外を眺めると、春なら新緑、秋なら紅葉が美しく、トンネルがまるで額縁のよう。トンネルの中で懐中電灯を消すと、都会では味わえない暗闇と無音の世界を体験することができ、まさに「非日常」を味わえます。

群馬県と長野県の県境に位置する碓氷峠は急峻で、かつては交通の難所として知られた。高速道路や新幹線の開通に伴って峠を越える人は少なくなったが、鉄道遺産とともに豊かな自然を満喫できる。

群馬県と長野県の県境に位置する碓氷峠は急峻で、かつては交通の難所として知られた。高速道路や新幹線の開通に伴って峠を越える人は少なくなったが、鉄道遺産とともに豊かな自然を満喫できる。

02

知的好奇心を満たす

現地を訪れてダイナミックな景観を楽しむのも一興ですが、ガイドツアーに参加すると一層楽しめます。なぜそこにそういう施設があるのか、背景や成り立ちを知り、解説を聞きながら工事の苦労を伴った場所などを巡ると、理解が深まり新たな発見につながります。子どもはもちろん、大人にとっても好奇心が刺激される体験に。

廃線に残る巨大な構造物であり、鉄道遺産であるトンネルは、石・煉瓦・コンクリートと年代ごとに素材が移り変わってきました。煉瓦造りのトンネルは明治初期から大正末期に造られたもの。100年以上前に腕利きの職人が積んだ美しい煉瓦を目当てに訪れる方もいるほど。実物に触れることで、新たな興味が生まれるかもしれません。

信越本線アプト式鉄道時代の廃線を整備した遊歩道「アプトの道」。明治期に煉瓦で造られたトンネル群(写真上)や「めがね橋」(写真下)に代表される鉄道遺産に触れられる。JR信越本線・横川駅より「アプトの道」入り口まで徒歩3分

撮影:花田欣也

信越本線アプト式鉄道時代の廃線を整備した遊歩道「アプトの道」。明治期に煉瓦で造られたトンネル群(写真上)や「めがね橋」(写真下)に代表される鉄道遺産に触れられる。JR信越本線・横川駅より「アプトの道」入り口まで徒歩3分

03

さまざまな趣向を楽しむ

その場所ならではの趣向を楽しめるのも魅力の一つ。地場産業とうまく連携し、地域の公共財である廃線トンネルを有効活用している好例が多数あります。例えば、群馬県と長野県の県境に位置する碓氷峠の旧信越線のトンネル内では、温度や湿度が一定という天然の条件を生かし、地元の老舗蔵元・有田屋が天然醸造醤油を熟成させています。

葡萄の名産地である山梨県甲州市のJR旧深沢トンネルはワインの貯蔵庫に。また、時期によってはビアホールやカフェを利用できるトンネルも。さらに、大阪府柏原市の亀の瀬トンネル(旧大阪鉄道亀瀬隧道)ではプロジェクションマッピングが好評を博すなど、最新技術を活用して地域活性化に貢献しているトンネルもあります。

碓氷峠のトンネル内で熟成させた「碓氷隧道仕込天然醸造醤油」(写真上)は有田屋の店頭とネットで販売。亀の瀬トンネル内でのプロジェクションマッピング(写真下)は要予約。JR大和路線・河内堅上駅より徒歩20分

撮影:花田欣也

碓氷峠のトンネル内で熟成させた「碓氷隧道仕込天然醸造醤油」(写真上)は有田屋の店頭とネットで販売。亀の瀬トンネル内でのプロジェクションマッピング(写真下)は要予約。JR大和路線・河内堅上駅より徒歩20分

インフラツアーを
楽しむために

碓氷峠の「廃線ウォーク」で特別講師を務める花田さん。「廃線ウォークは子どもから大人までハイキング感覚で楽しめるので、ファミリーで参加する方も。インフラツアー入門におすすめです」

各施設を訪れる際に留意してもらいたいのは、暮らしを支える役割を担って稼働中であるということ。本来の役目を終えている場合も、国の重要文化財として管理されていたりと、完全なオープンな空間ではありません。許可を得て見学することになるので注意事項があります。ヘルメットや長靴を着用する必要があったり、持ち込める荷物の大きさに制限があったりすることも。

現場で見学者を受け入れている担当者は事故が起きないよう、日々の業務に差し支えないよう、気を配りながら案内しています。そういうことを念頭に置いておくと安全に楽しめます。ツアーやイベントは国土交通省のポータルサイトなどで紹介されていますので、事前によく調べて行きましょう。

碓氷峠の「廃線ウォーク」で特別講師を務める花田さん。「廃線ウォークは子どもから大人までハイキング感覚で楽しめるので、ファミリーで参加する方も。インフラツアー入門におすすめです」

  • PROFILE

    花田欣也さん

    トンネルツーリズムプランナー・
    総務省 地域力創造アドバイザー

    大手旅行会社に長年勤務した経験を生かし、地域観光のアドバイザーとして自治体などと連携。JRを全線乗車した鉄道ファンでもあり、ライフワークとして全国に残る土木産業遺産であるトンネルを歩き、「トンネルツアー」の講師を務める。メディアにも数多く登場し、地域活性化につなげる講演や執筆も幅広く行っている。
    https://hanadakin-chiikitnl.grupo.jp/