避難編(1)|正しい避難のための判断基準

  • 公開日:2026.07.24

「避難」と聞くと、避難所に行くことをイメージする方が多いかもしれません。しかし、実際の避難とは単に「避難所へ移動すること」だけではありません。本当に大切なのは、今いる場所が安全かどうかを見極め、状況に応じて最適な行動を選択することです。今回は、「どこに逃げるべきか」「本当に移動が必要なのか」を冷静に判断するための考え方をお伝えします。

まずは「今いる場所は安全か」を考える

避難とは、必ずしも「避難所へ行くこと」ではありません。本質的な意味は、「災難を避けること」です。

地震のあと、「とにかく避難しなければ」と慌てて移動すると、落下物や火災、混雑による二次災害に巻き込まれる可能性もあります。危険とされていない地域に住んでいて、家の耐震性が確認でき、室内の安全対策や備蓄も行なっており、けが人もいない。そうした条件がそろっているなら、「自宅に留まる」ことも立派な避難です。

避難を考えるときの基本的な視点は、「今いる場所は安全か」「移動するほうが危険ではないか」。この二つを軸にすると、不要な移動をしなくてすみます。

「事前避難」と「発災後避難」はまったく別もの

ここで知っておいてほしいのが、「事前避難」と「発災後避難」は意味がまったく異なるということです。

事前避難は、津波や土砂災害、河川の氾濫など、危険が予測されている地域に住んでいる場合に、被害が出る前にあらかじめ避難することを指します。このときには、迷わず早めに逃げることが最優先です。一方、発災後避難は主に地震などの後、自宅が危険な状態になった際に行います。

このように、災害の種類やその時の状況によって、避難すべきタイミングは大きく変わります。

避難先は一つではない

避難先には、主に次のような選択肢があります。
●一時(いっとき)避難場所:一時的に身を守るための場所
●広域避難場所:地域全体が危険な場合に避難する場所
●指定避難所:避難生活を送る施設
●在宅避難:自宅に留まって避難生活を送る方法

これらの避難先はそれぞれ役割が異なり、すべての災害に万能に対応できるわけではありません。地震や水害、火災など、災害の種類や状況によって、どこに避難すべきかが変わります。「避難所」とひとくくりにせず、自分の住む地域のどこに、どんな避難先があるのか、事前に確認しておきましょう。

「戻るタイミング」を見極めることも大切

2016年の熊本地震では、前震後に避難し、「もう大丈夫だろう」と思って自宅に戻った直後、本震によって被害に遭うケースがありました。

大きな地震では、強い揺れが何度も続くことがあります。たとえ家が耐震基準を満たしていても、繰り返す揺れの中では安全とは言い切れません。一定期間は警戒を続ける必要があります。

「家があるからすぐに戻る」のではなく、「今、自宅に戻っても本当に安全か」という視点で判断することが重要です。基本的には、1週間は自宅に戻らず、様子を見ることをおすすめします。

感染症を理由に避難をためらわない

「避難所は感染症が心配だから行きたくない」と感じる方も多いでしょう。しかし、ハザードマップで危険が明らかな場所に住んでいる場合や、家に被害が出ている場合は、迷わず避難所へ向かうべきです。

避難所の感染症対策は、以前から厳しい基準が設けられています。感染症対策のマニュアルに従い、収容人数の制限や換気、消毒などが徹底されています。

最優先すべきなのは、「命を守ること」と「大きなけがをしないこと」です。感染を恐れるあまり、命の危険を選んでしまわないようにしてください。

EXPERT’S NOTE

避難時の指針にしたい標語「よ・い・こ」

子どもの頃に習った「おはしも」「おかしも」「おはしもて」などの標語は、主に避難訓練時の安全を意識したものです。実際に避難する際に役立つ指針として、私が提案している標語「よいこ」を覚えておいてください。

「よ」は「よく見る」。さまざまな情報に惑わされず、今の周囲の状況をよく見て、自分で判断することが必要です。

「い」は「急いで逃げる」。どこへ、どの道を、どうやって逃げるのか、日頃から具体的に考えておくことで、素早く行動できます。

「こ」は「声をかける」。避難中は周りの人に進む方向や状況を伝えることも大切。そして何よりも自分自身に「大丈夫」と声をかけ、冷静になることを心がけましょう。

  • PROFILE

    辻 直美さん
    国際災害レスキューナース

    一般社団法人育母塾 代表理事。国境なき医師団の活動で上海に赴任し、医療支援に従事。帰国後は看護師として勤務する中で阪神・淡路大震災を経験し、実家の全壊をきっかけに災害医療の道へ。国際緊急援助隊医療チーム(JMTDR)で救命救急に携わり、レスキューナースとして活動。現在はフリーランスナースとして、国内各地で講演や防災教育を行い、要請があれば被災地支援にも従事。著書に『レスキューナースが教える 最強版 プチプラ防災』(扶桑社刊)など。

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