【アーバンスポーツを楽しむ!】 #2 ブレイカーが描く未来

  • [ スポーツ ]
  • [ カルチャー ]
  • 公開日:2024.09.25

ヒップホップ音楽に乗せ、ダイナミックな技で魅せるブレイキン。近年、アーバンスポーツの一つとして注目を集めています。日本のブレイクシーンを牽引し、スポーツとしての発展にも力を注ぐブレイクダンサー・JDSFブレイクダンス本部長の石川勝之さんに、競技化までの歩みやカルチャーとしての魅力を聞きました。

取材協力:公益社団法人日本ダンススポーツ連盟(略称:JDSF)

「カルチャー」から「スポーツ」へ

1970年代にニューヨークのストリートで生まれたブレイキン。ギャングの抗争を暴力ではなく踊りで平和的に解決したことが起源とされています。ヒップホップ文化の一部として発展し、スポーツとしての側面を持つようになったのは、2018年にブエノスアイレスで行われた大会からでした。競技化にあたり一番大変だったのは、競技としてのルールと組織を短期間でつくることだったといいます。

それまでカルチャーとして自由で何をやってもいいとされていたものが、 これは減点、これは加点とルールを決められることに疑問や不満の声も多かったと語る石川さん。「僕自身その気持ちもよくわかるから、話し合いを重ねましたし、逆に新しいものをつくっていくという気持ちで挑みました」

Photo by Yuko Kawashima

ブレイキン日本一を決定する「全日本ブレイキン選手権」の会場。

「ルールとしては絶対評価で採点するほうがわかりやすいんです。フィギュアスケートみたいに1人ずつ踊って誰が一番うまかったか。でもそうすると、ブレイキンならではのフォーマットであるバトルの意味がなくなってしまうので、相対評価で優劣をつけていくトーナメント形式になりました」

組織面では元々社交ダンスが運営していた連盟にブレイキンが加わる形に。「彼らもカルチャーからの競技化という同じ経験を経てきているので、話してみたら意外とわかり合えるところがあって」。日本は強豪国ということもあり、組織づくりの面でも海外から手本にされているのだとか。

「ヘッドスピン」はブレイキンの代表的な技の一つ。

即興で繰り広げられるダンスバトル

ブレイキンはDJがかける即興の音楽に乗せたアクロバティックな技が魅力の一つ。同じ動きでも、テクニックや独創性、音楽とのマッチなどの審査基準が5項目あり、そのパーセンテージを合計して勝敗がつきます。

「例えば、美術館にゴッホとピカソの絵があって、どっちが勝ちかと聞かれても、どっちもいいじゃないですか。でもタッチは全然違う。だから、ジャッジはその絵、そのダンスのどこに惚れたのかという視点で観てみるとおもしろいかもしれません」

「バトル」は3ラウンド構成。DJの選曲に合わせ、最大1分間のパフォーマンスを交互に行う。

1対1で交互に踊りを見せ合い戦うバトルという形式から、“殴り合わない格闘技”ともいわれるブレイキン。「対戦相手の技術性が自分より高いと感じたら、僕は音楽性が強いので、そっちでポイントを取っていく。そうすると相手はやりにくくなるんですよ」。状況に応じて踊りが変わるのも即興ゆえの醍醐味です。

人との出会いで世界は広がる

中学生のときにテレビで見た技を、それがブレイキンだということも知らず、学校の廊下で友達と真似してみたのがスタートだったという石川さん。純粋な好奇心から始まって、仲間ができて、目標ができて、気づいたらどっぷりハマっていたのだとか。「ブレイキンの魅力は“出会い”。全ての物事は出会いから始まると思っていて。ダンスをやっているとたくさんの人と簡単に出会える。すごい武器ですよね」

ダンサーネーム「KATSU ONE(カツワン)」こと石川さんのパフォーマンス。

大学時代に本格的にブレイキンを始め、海外に行って英語の壁を感じると、中学1年生の英語の教科書で勉強し直したそう。「英語には全然興味がなかったんですが、ブレイキンを通して考え方が変わったんです。ダンスにすごくハマる子ってやっぱり英語力も伸びますね。日本だけじゃなくて海外でもやってみたいって」

 

自由に踊る楽しさを伝えたい

石川さんは子ども向けのワークショップも行っており、その中で、うまくないのが恥ずかしくて踊れない子をたくさん見てきたといいます。「文化的な要因もあると思うんですが、どの地域にもお祭りや踊りがありますよね。赤ちゃんでさえうれしいと踊る。根っこのところではみんな踊りたいんじゃないかなって思います」

Photo by Yuko Kawashima

キッズ向けのワークショップの様子。ブレイキンは子どもの習い事として人気が高い。

最近はブレイキンを始める年配の方も増えているとのこと。60代、70代で踊っている方も。「ダンスは楽しむものという意識が中心にあって始める人たちはガンガン踊れるんです。ダンスは元々すごくフリーダムなものだし、うまくなくてもいいんだよって、どうやったら伝えられるかいつも考えています」

年齢・性別・人種・障害の有無に関わらず、“イコール”になれるのがブレイキンだと石川さんは語ります。「バトルで立った瞬間に対等に始まるし、個性が武器になるんです。ゆくゆくはブレイキンがライフスタイルになるといいですね。例えば公園で親子がキャッチボールするじゃないですか。あれがブレイキンでもいいんじゃないかなって」

Photo by Yuko Kawashima

  • PROFILE

    石川勝之さん

    ブレイクダンサー

    1981年、神奈川県生まれ。大学時代にブレイキンを本格的に始め、国内外の大会で活躍。2014年、株式会社IAM設立。2018年、JDSFブレイクダンス本部長就任。体育の教員免許も持ち、ダンスを通して人間力を高めることの重要性を伝えながら、日本と世界の架け橋として活動している。