東京未来建物会議 Listen

コラム

VOL.1

気持ちと機能が共に揃った、誰もが心地好い部屋作り。美しい収納が育む、好循環。

石黒智子さん

より良い暮らしのヒントを探して、様々なものに出会ってきたLISTEN。今回は、とある暮らし上手のご自宅を訪ねました。その人の名前は、石黒智子さん。1982年から雑誌や新聞に登場し、自身のライフスタイルを紹介。これまでに『心地よい暮らしのシンプルキッチン』や『わたしの台所のつくり方』など12冊の書籍を執筆している正真正銘の暮らし上手です。石黒さんは、建築家である旦那さまと息子さんの3人暮らし。限らたスペースを生かした美しく且つ機能的な収納は、見ているだけでなるほどと感心してしまいます。その中のいくつかをご紹介します。

神奈川県の閑静な住宅街に、石黒さんが暮らす家がある。結婚したときに建築家の旦那さんが建てた家は、100㎡のワンフロアに、キッチン、リビングダイニング、夫婦のベッドルーム、息子さんのベッドルームのある2LDK。その部屋の各所に、石黒さんのこだわりと愛情が詰まっていた。自分のこだわりを込めた家でも、年月を重ねれば使い方も変わる。収納スペースの使い方にも、石黒さんのこだわりがある。「素敵なキッチンの出くる外国映画が大好き。映画を観ていても、インテリアの様子がわかるシーンに釘付けで、ストーリーは覚えていないの(笑)」映画から得たインスピレーションや、日々使っていくなかで考えた機能性の集合のようなキッチン。決して物が少なくないわけでない。だけど、すっきりしている。その秘訣はどこにあるのだろうか。

「うちには、主人の大学時代の仲間、息子の友達、ご近所さんなど、とにかく来客が多いの。その度に、料理を作っておもてなしをしていたら家族は大変でしょう?でもうちは、みんなが気楽に作ってくれるから楽チンなの」。石黒さんは、ことも無げにそう笑った。いくら親しい間柄だとしても、他人の家のキッチンは何かと使いづらいもの。「好きに使っていい」と言われても、使う道具、食材、何がどこにあるかわからないなかでの料理は気を遣う。「だから、誰でも、すぐに使えるキッチンにしました」と石黒さん。そのヒントを説明してもらおう。

よく使うものは手前に。色が同じものはまとめてラベリング。

キッチンを見渡せば、料理に使うありとあらゆるものが揃っている。各種包丁や、ピーラー、見たことのない調理道具までほとんど一目でずらりと目に入るが、ごちゃごちゃしている印象は受けない。「軽くてメンテナンスの楽な道具ばかりです」と、石黒さんに言われて気が付いた。「誰もが使いやすい道具です。長く使いたい道具は経年変化を楽しめる素材、磨きがいあるデザインを選びます。結婚して最初に買った18㎝ステンレス片手鍋は今でも毎日使って、半年に1度はサンドペーパーでピカピカに磨きます。その鍋の黒のグリップに合わせてグリップはすべて黒です」メーカーはバラバラだが、素材と色を統一するとスッキリ収まる。家電製品は操作の簡単な単機能。カップボードの洋食器は、電子レンジとオーブン調理、冷凍保存にも使えるストーンウェアと耐熱ガラス製だ。同じ素材や色で統一されているから、目に入る場所に並んでいても美しく見えるのだ。

そのコツは引き出しの中や、調理台下の収納にも活かされている。ステンレスのカートを引き出せば、白い粉ものがいれられた同じ大きさのキャニスターが並んでいる。そのひとつひとつに「Sugar」 「Flour」「corn」…と中身が書いてある。
「まちがえていけないのは、塩。だから1種類で商品も変えない。中に入れた計量スプーンも塩だけが黒で、他は白です。1kgの塩が入るサイズで、上白糖1㎏は固まらないようにふたつに分けて入れます。小麦粉は500gをふたつに分けてふんわり入れると使うときにダマになりません。コーンスターチと片栗粉は300gを買います。」またカトラリーが入った引き出しには、石黒さんによるひと手間が加えられていた。「カトラリーを引き出しに入れると、引き出すたびにがちゃがちゃ散らかってしまいませんか?『どうしたら解決するだろう?』と考えて、角度をつけてみました。そうして見せてくれた引き出しの中は木箱が間仕切りとして使われている。その間仕切りは、引き出しの奥の方が1cm高くしてある。角度をつけたことによって、横揺せずカトラリーが動かない。こんなちょっとした工夫でストレスから解放される。

板から箱を作ろうとしたら大変だけど、箱から箱を作るのは簡単。

石黒さんの自宅に入ると、実はキッチンより前に、大きな作業台があるのが目に留まる。学校の工作室にも引け劣らない、立派な作業台だ。「みんなでここに集まって、工作もします。息子が小さいときにも友達がたくさん集まって、今では主婦友達が、何か作業をしにやってきますね。ステンレスボウルに穴を開けて吊るせるようにしたり、玉子焼き器の木ベラを作ったり。この作業台があれば簡単です」と石黒さん。さっき見せてくれた間仕切りのための箱や、料理で使う木ベラまで、石黒さんは手作りしてしまう。

「板から箱を作ろうとするから大変なの。例えば箱は、箱から作るの。サイズを変えるだけなら釘を打たなくてもボンドで貼るだけ。この木ベラだって、ちょうど良い大きさのものを見つけたのだけれど、少し反っているデザインが私には余計だったので、その木ベラを鉛筆でなぞって、真っすぐのものを作りました。元からあるものを工夫すれば、意外と簡単にできてしまうものですよ。」どこの家にも立派な作業台があるわけではないから石黒さんのやっていることを全てはマネできない。でも、考え方から学べることがたくさんある。

間取りに気を取られることなく、もっと自由に居住空間を楽しむ。

ベッドルームを見せてもらって驚いた。中央にキングサイズのベッドが置かれた部屋。そのベッドを取り囲むように線路が敷かれ、ミニチュアの鉄道が走っている。その線路は、隣の部屋まで続いて二十畳。こんなユニークなベッドルームはなかなかないだろう。部屋には収納はなく、衣類や本などすべて納戸にまとめられている。照明はフットライトのみ。鉄道好きの家族だから、自然にこういうベッドルームになったと言う。「大好きなものに囲まれて眠るなんて素敵でしょう?」と石黒さん。

「『プラダを着た悪魔』という映画に出てくるヒロインの部屋を覚えていますか?キッチンのシンク横にバスタブがあるの。それを見れば、『間取りなんて気にしなくていいのだ』と思うはずですよ。映画のなかのインテリアはお手本。そのままを現実に叶えるということはないのだけれど、間取りに拘らずに自由にイメージを膨らませる。工夫をしてみることで、もっと豊かな空間をつくり出すことだってできるかもしれないですよ。私は寝室なんて要らないって思っています」

石黒さんの暮らす家で見つけた小さな手作りの工夫。そのひとつひとつが自己満足や独りよがりではなく、コミュニケーションを円滑にするために、そこで過ごす人々が居心地良く、楽しい気持ちになるように、という発想から生み出されたもの。「できることのひとつひとつをゆっくり解決してきました。
できないと思っていたことのいくつかは時代が解決してくれました。自分の年齢や経済力、社会状況や環境の変化、健康状態などで価値観は随分変わるものですが、情報に振り回されないためにも急がず、ゆっくりゆっくり好循環な暮らしを築きましう」そう話す石黒さんの家に、たくさんの人が集まってくる。

石黒智子
いしぐろ・ともこ/神奈川県在住。主婦。1980 年から雑誌・新聞などで暮らしを楽しむエッセイ、コラムを執筆。2001 年からホームページ『IshiguroTomoko’ Life Style』を開設。2002 年より(株)貝印にて『石黒智子のシンプルな台所道具』シリーズの商品開発などを手がける。
『心地よい暮らしのシンプルキッチン』(ソフトバンククリエイティブ)、『わたしの台所のつくり方』(暮らしの手帖社)などがある。

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